掌の小銭。

□1 逃亡者=私
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四月になっても未だに消えない歩道の雪の端に出来た薄氷を踏みながら、コンビニまでの道のりをゆっくりと歩く。

下ろし立ての制服の上から羽織った男物のダッフルコートは手にした唯一の荷物である財布よりずっと重い。

はあ、と吐き出した吐息は白く形作り、宙に溶けた。

紫の小さながま口財布は異常に軽く、何度確かめてもその中には一枚の真鍮製のくすんだ硬貨が一枚とメモが一枚あるだけだ。


「巻へ

現金は私が預かった。

返してほしくばうちの部活に入れ。

雅子」

ただただ平然と並ぶその四行だけのメッセージが、私への理不尽な行いに対する怒りを加速させた。

巻と言うのは私の名前。
雅子さんというのは私の伯母で、今度から下宿する家の家主だ。

伯母は、私が入学した高校で教師をしており、同時に男子バスケ部の監督も勤めている。

男子バスケ部。

……一応言っておくが、私はれっきとした女子生徒である。

ならば何故誘われているのかーーそれは、私がなるべく彼女の監視下に居なければならないことに起因する。


所謂、不良生徒。

そうは言っても外見だけ見れば普通の田舎の女子高生だし、それでは何が問題なのかと言えば……。


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