掌の小銭。
□2 狩人兼獄卒=叔母
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「見つけた」
そう言われて、私は体を強張らせた。通りに出て、まだほんの五分程度だというのに。
とん、と肩に手が置かれる。
「巻ちゃんだよね。ついてきて貰っていいかな」
疑問として発せられたはずの知らない男性の声には、有無を言わせぬ強制力があった。
恐る恐る振り返ってみれば、そこには片目を隠した優男が立っていた。
泣き黒子がなんとも印象的だ。ついでに陽泉高校バスケ部のジャージも印象的といえば印象的だった。
「…は?」
笑顔の青年に対して、私はすかさず睨み付けた。
いつもの私なら困惑しながらも懇切丁寧に人違いだと説明しただろうが、生憎私はいま「直くん」なのだ。
擦れ気味の直くんが赤の他人に優しくする図がまず浮かばない。
青年は困り顔で「ええっと…」と呟いて私を見下ろした。
「巻ちゃんだよね?監督の姪子さんの」
「人違いです」
どうやら、完全に顔は割れているようだ。
こうなりゃ強行突破、何て思っていた矢先、青年に手を掛けられたままの方とは逆の肩を後ろから鷲掴みにされた。
「巻……?」
「……ヤッホー、叔母さん。奇遇だねー」
振り向かずとも誰が背後にいるかなんてすぐにわかった。
ミシミシと肩が不穏な音をたてる。
「私の命令を拒絶するとは居候の分際でいいご身分だなあ?」
「いやあ、アハハ。そういうお年頃なんだよね〜……ってことで」
さいなら!と言って私は体を捻り、両肩を自由にし、その反動でスタートダッシュを決めて一目散に逃げ出した……はずだった。
「うぶっ!?」
「おっとっと……」
振り向いたら、壁が迫っていた。
……違う。人だ。
恐る恐る上を見上げると、物凄く見覚えのあるパープルヘアーが。
「あれ―、さっきのまいう棒の子だ〜」
「ひっ、人違いだぁっ!!」
慌てて方向転換すれば、バッチリと雅子さんと目があった。
――その後私がどうなったかは、ご想像にお任せする。