掌の小銭。

□3 保護・観察係=パープルヘアジャイアント
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朝焼けに照らされる朝早い教室で、一心に本を読む黒髪の少女。
窓際から射す逆光により、その表情は知れない……。


「おはよー巻ちん」
「……」

教室の入り口に立つ、異常なほどの長身の男子生徒。
その目は、日に目が眩んだのか、はたまた眠気によるものか……。
対する少女は――呼び掛けられたと思わしき女生徒は――手にした古書から顔を上げることはなく。
手にした物語の世界にたっぷりと浸り続けるのだった――。

「そーいえば確かに昨日『シカト最強』みたいなこと言ってたもんね〜。じゃあ仕方ないか〜」
「…………」
「カントクから、無視されたら引き摺ってでも連れてこいって言われてたんだけどな〜」
「…………――は?」

そのままいつも通り少女は他者の言葉に耳を貸すことも……なくなかった。
さっき、紫の巨人から「カントク」というマジックワードが飛び出したのは気のせいだろうか。
しかもなんだろう、引き摺るなんて物騒な言葉が聞こえた気がするぞ。
……いや、待て。
こいつはカントクと呼ばれ恐れられる我が雅子さんの手下の一人ではあるが、その名を語っているだけでないのか?
だとすれば、それに応じた私はただの阿呆ということになる。
生憎と私に膾を吹くような滑稽な趣味はないのだ。
まして相手は昨日初めて会ったばかりの人物。
迂闊に信用するわけにはいかない。
私――黒髪の少女――は恐る恐る席を立つ。

「あ、良かったー。流石に引き摺っていきたくはないから〜」

間延びした声への返答は勿論無言。
髪をかき上げながら、颯爽と教室を去る私。
うん、なかなかかっこいいんじゃなかろうか。
紫の巨人が何やら私のことを凝視しているが、観察でもなんでもするが良いさ。
私という生き物の異質さに呆気にとられて金輪際近づいてこないで欲しいものだ。


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