掌の小銭。

□5 イケメン=天敵
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「だいじょーぶ?」
「……えほっ、げほっ」

頭が重い。
なんでもないことのように聞いてくるパープルヘアーにたいして 、いつもなら無視していられるのに、今日はやけに殺意が湧くのはこの体調のせいだ。
目の前でジャガイモを使った棒状のスナックをボリボリ食べながら暢気な顔でこちらを見下げる巨人を睨んだ。
この距離ならマスクをはずして至近距離で咳をぶっかけられる気がする。
そうは思ったものの、そのために体を動かすのが面倒に思え、止めた。
昨日、布団の上に寝転がった直後にそのまま寝てしまったのが仇となった。
しめた、この体調を利用して、うまくいけば欠課せずに授業をサボれる!
そう考えはしたものの、やはり体が動かない。
咳で腹筋は辛いし、頭は痛いし、体はだるいし、月のモノが昼食前に来たことに気付いちゃうしで、私はそろそろ限界だった。
昼食も、いつもなら巨人から逃げながら取るのだが(大抵女子トイレの個室で食べる。センサーで照明が点くようになっているので、足を少し浮かせて常に降り幅大きめでぶらぶらしながら食べるのがコツだ)、まずもって食欲がわかない。
今日は冷凍食品のオンパレードなので、正直食べたくはないが。
「食べないならちょーだい」とパープルヘアーに言われた気がするが……どう返答したかは覚えていない。

※※※

目が覚めたら、暗闇の中、ベッドで寝ていた。
どうやら鼻水も出てきたようだ……息苦しい。
いつの間にか保健室に来ていたようで、時計は八時を過ぎていた。
背中の汗が気持ち悪い。
保健室の教諭はどこにいるのかわからないし、気配も感じない。
静かに起き上がり、隙間から向こうを覗き見る。
人の姿が見えないのをいいことに、私はこっそりカーテンの隙間を音がたたないように開けて、そこから身を滑らせるように脱出した。
こうしてみると、映画のバイオハザードの一作品目のラストシーンのようでドキドキする。
それしか見ていないからなんとも言い難いが、少なくともあの中ではレッドクイーンが一番好きだ。
人工知能なのにおませでいたずら好きな女の子という解釈のうえで言っているのであり、悪役として見るなら怖すぎて一目散に逃げてしまいたいが。
侵入者を閉じ込めてレイザーで切り刻むとか、笑えない。
そんな話をする相手も別に居ないので更にぶっちゃければ、一時期それがきっかけでゾンビにはまり、腐乱死体ばかり描いていたときもあったりしたのだ。
土左衛門とか、ちょっと面白かった。
保健室でそんなバカみたいなことを考えながら見つからないように引き戸の隙間をくぐって出る。

……あれ、人、居なくね?
もしかして私……え?
お い て け ぼ り く ら っ た……?

いや、待て待て。
まだ、そうと決まった訳じゃない。
さすがに職員室には誰かしらいるって。
ここには残念ながら無人のパトカーもなければ、それに搭載された銃(武器)もないので物凄く不安だが……まさか本当にそんなことがあるわけないので、取り敢えず荷物を取りに教室へと引き返すことにした。


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