掌の小銭。

□5 イケメン=天敵
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「こ、ら」
「ぅぎにゃあっ!?」

鞄抱えてとんずらしようとしたら、ぐんっ! と襟が後ろに引っ張られて喉がしまって変な声が出た。

「室ちんー、捕獲かんりょー」
「ありがとう、敦! これは俺が片付けとくから、巻ちゃんをちゃんと捕まえといてくれ!」
「はーい」
「離せぇーっ!! セクハラ反対っ!」

じたばた暴れると、パープルヘアーが「はいはい、いいこいいこ」と頭を撫でてきた。
私はペットじゃない!
 振り切って思いっきり手に噛みついたら離されたので、よしこのまま逃走を、と思った矢先に反対の手で捕獲された。
 畜生、もっと強く噛めばよかった。血の味がしたからって、途中で躊躇するんじゃなかった!

「さて、敦。帰ろうか」
「そだねー。巻ちんは俺が抱えてくから」
「はぁっ!? ふざけっ……ひぃっ」

ぐいっ、と引き寄せられ、腰を支えられたかと思うと……そのまま肩に担がれた。

「たっ……高い高い高いっ!! 掴めるとこないから凄い不安定だしなんだこれマジで怖っ!?」
「よっこいしょ……あー、巻ちん意外と重いねー」
「敦……流石に、女の子にそれは失礼じゃ」
「重いのか! じゃあ下ろせ! 今すぐ下ろせ!」
「……」

普通に生きている人体がそれなりの重さがあるなんざ普通だ。
健康な証である。

「巻ちん、何キロ?」
「0.00164キロメートルだこらなんか文句あるか!」
「その解釈で答えが返ってきたことにビックリ」
「……敦……、……いや、なんでもない」

イケメンさんは何か言いかけて止めた。
正しい判断だ。

「何カップ?」
「一応この間測った時は……んむっ」
「巻ちゃん、流石にストップ。敦も調子乗らないの」
「……はぁい」

イケメンさんが人差し指を私の唇に押し当てた。
他人の肌が自分の皮膚の薄い部分に触れるのはなかなか気持ち悪いので、口をガバッと開けて威嚇したらすぐに離された。

「おっと、ダメだよ咬んじゃ」
「気持ち悪いことされたので」

謝る気はありませんというと、申し訳なさそうに「ごめん」と言われた。
なんでだ?

「何でもかんでも答えちゃダメだよ、巻ちゃん」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ?」

首をもたげてそちらを見ると、困ったように笑われた。

「じゃあそろそろ行こうか、見回りの先生に見つかるのも面倒だし」
「りょーっかい」
「うぉあっ!? も、持つならしっかり持ってよ! 揺れて落ちそっ!! ひぃぁっ」
「足持つけど、いいの?」
「安定すると言うのなら!」

パープルヘアーが歩き出した途端、二メートルはあるだろう肩からずり落ちそうになって慌てて制服に掴まった。
太股をガッツリ押さえられたが、スカートは膝丈だし黒タイツも百二十デニールの超厚手だ。
例えやましいことをされようと大丈夫なはず。
仕方なく、私は人気のない家路をずっとパープルヘアーに担がれて帰った。
……歩かなくていいのは良かったが、途中何度も「これは何の羞恥プレイだ!」と叫びたくなったのは、秘密である。

※※※

後日談。
私はその後また熱を出して欠席した。
だが、せめてこれくらいはと体育館に忍び込んで部活の準備をしていたところをまたも二人に見つかり、今度は人通りのあるうちに担がれて帰宅。
当然その中には同じ学校の生徒もいるわけで、あっという間に噂が広がり私とパープルヘアーは一躍時の人となった。
……勿論、私達(特に無断で学校に来た私)はこってりと生徒指導の対象となったのだが……それはまあ、別のお話と言うことにさせて頂こう。


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