掌の小銭。

□6 こんなのでも一応性別というのがあってだな
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「あー、ヤバかったぁ」
「……何が?」
「すっごい良い匂いした」

何が、とは言わなかったが、恐らく先程自分達の監督に引き渡した少女の事だろう、と氷室は認識した。
あの体勢で担がれた本人は見えなかっただろうが、氷室にははっきりと、友人が恥ずかしがっている様を見ていた。
何にせよ、普段表情を変えない紫原には珍しいことだ。

「すげぇ柔らかかった」

わきわきと両手を動かす紫原に、氷室が苦笑いを洩らす。

「あんまりそういうこと言うと、失礼だよ」
「そっか、……うん。じゃあ止める」

止める、とは口で言ったものの、紫原の手にはまだはっきり感触が残っている。
長いプリーツスカートと厚いタイツ越しにも伝わる、太股の体温と柔らかさ。
腰の細さと、肉つきのちょうどよい括れ。
そして、石鹸のものであろう爽やかで優しい、僅かに甘い香り。
只でさえ、あのルックスの良さだ。
黙っていても敵意が瞳から滲み出るような狂暴さはあるが、決して根が悪いわけでないことは何となくわかる。
なぜそれを帳消しにしてまで他人の逆鱗をわざわざ撫でてくるのかは解らないが……美人は美人だ。
ましてや、紫原も健全な男子高校生である。
自制しろなんていうのが無理な話で。

「(……俺もしかして、変態?)」

口には無論出さなかったが、夕食が終わっても、一人ベッドの中で暫く悶々と夜を過ごしたのだった。

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