倉庫
□子犬系未確認生物。
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※※※
「××……?」
不意に、ソレは自分が呼ばれた気がして顔をあげた。
喉を震わせると、「きゃん!」という掠れた高い音が出る。
或いは、その音は、鳴き声だったのかもしれない。
「……」
目線を上げると、黒いズボンが見えた。
――私はこれを知っている。
――“ジャージ”といわれる、一般的な運動着。
だが、首をギリギリまで上向けても、その顔は望めない。
――黒い“シャツ”。
――腕まで覆われていないから、きっと肩の辺りまでしか袖がないタイプの……。
ぱたた、と尻尾を振った。
暫くすると、黒い服の人間は少し身じろいでから決心したようにソレの前から立ち去っていった。 辺りはもうすぐ、暗くなろうとしている。
――あ、置いていかれる。
――……どうしょう?
ソレは、よくわからない焦燥に駈られた。
あの人間に着いていけばもしくは、という淡い期待が無いでもなかったのかもしれない。
だがその思いよりなお、在るわけもない本能に近い、根元的欲求。
――早くここから出なければ、逃してしまう……。
躊躇うように背を向けてゆっくりと遠ざかる背に、ソレは焦って、見つけたばかりの居城を棄てた。
……ソレの収まっていた段ボールの中に、今のソレとよく似た姿形だった子犬の、骨と腐りかけの毛皮だけを残して。