倉庫
□Fe=x,大人<x<子供
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私の霊力は、極めて上質なそれなのだそうだが、量は本来なら本丸を経営していくにおいてギリギリアウト、だそうだ。
そのため、初期刀を選びとるだけでも倒れること必須、との太鼓判を担当者に告げられた。
ならばどうすりゃいいのだと顔をしかめたときに提案されたのは、審神者が何らかの事情により出ていかざるを得なかった本丸の引き継ぎだった。
両親は既にあの事故で他界、祖父母もすでに他界済みで、ろくに知りもしない親戚に引き取られるくらいなら、と政府の勧め通りに審神者となることを決めた。
元より、帰る場所もなく、迎える家族も消えた。友とする人もいない。
ならばこの身がどうなろうと知ったことではない。
……だからといって。
「何一つ説明がなされなかったままこの場を引き継げと言うのはどうかと思うのですが、こんのすけ」
あなたはどう思いますか?
足下の黄色い狐にそう問いかけると、それは見事に私の戯言を聞き流し、切り裂かれた障子の隙間をひょいと潜って審神者が拠点とする部屋に入っていった。
「こちらが拠点となる審神者部屋となります。
特殊な結界が張られているため、登録者の任意の人物でなければ部屋の中にはいることはできません」
「……知っています。
私は部屋に関しての情報を求めたのではありません。
政府に対し、この本丸の情報の開示を要求します」
「その情報は、現在機密事項となっています」
「理由は…」
「機密事項となっています」
しばし、こんのすけと無言のにらみ合いが続いた。
諦めた私は部屋中央のちゃぶ台に乗った薄型タブレット端末を繰り始めた。
まずは、管理者として正式に私の個人情報を再登録。
私の特例に合わせて政府へノルマの改善を提示。
そして、担当となった本丸の見取り図を確認した。
「この本丸には、畑はないのですか」
「土地はあるにはあるのですが、数年近く耕されていないため、しばらくは使い物になりません」
「……わかりました」
つまり、数年間放置された本丸だということか?
いや、決めつけるのは、早計か。
畑当番を決めなかっただけ、ということもあろう。
だが、そんなことあるのか?
疑問を抱えたまま、次の確認に移る。
刀帳とほとんど残っていない前任の過去の記録。
それを見て、殆どの疑問は解消された。
「初期刀、山姥切国広。初鍛刀、薬研藤四郎。いずれも刀剣破壊……。
堀川国広、加州清光、乱藤四郎、加仙兼定、秋田藤四郎、へし切長谷部、にっかり青江、蜂須賀子鉄、獅子王、…………刀剣、破壊」
なるほど。
ならばこの本丸が荒廃しているのも納得だ。
手入れをする人がいないのでは、壊れていくのは自然の摂理。
「いや……ちょっと待ってくださいよ。
危うく理解しかける……もとい、誤解しかけるところでしたが、通常本丸は刀剣がなくなった時点で完全に崩壊するはず……」
「居ますよ。刀帳を最後まで読んでください」
「……」
この胸くそ悪いものを最後まで読めと?
私は、そっと息をついて刀帳のページを閉じた。
生き残りがいるのなら、そのうち会うこともあるだろう。
政府からこの本丸を引き継ぐにあたり用意された補償金のほとんど丸々すべてを本丸の改修工事に当てることにした。
一ヶ月の私の最低限の食費と光熱費、水道代などの雑費を残して、便所、台所、手入れ部屋、風呂場、寝所などの最低限必要な場所を改修。
それらの場所に赴く際、当然私とこんのすけ以外の住人を探してみたのだが、人のいた痕跡はあれど実際にその姿を見たことは一度もないのだった。
「これならまだ、まっくろくろすけのほうがすぐに出てくるでしょうね」
「まっくろくろすけ……ですか?」
まったく、悲しい時代になったものだ。
AIすらまっくろくろすけを知らないなんて。
そんな無駄口を叩きながら改修工事を行う日々が一週間ほど続いた。