植木鉢(またはオリジナル短編・中編集)

□変人二人、放課後。
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私こと(あずま)(うま)の悪友である、釘糠(くぎぬか)暖簾(のれん)はよく私のことを『屁理屈好き』と揶揄する。
 しかし、その呼び名は私にとって大変遺憾な物であり、同時に不愉快極まりないものなのだ。

「だったら、お得意のへ理屈捏ねて自分が屁理屈好きでないことを証明できるのかよ、東。
屁理屈は、好きじゃなくても十八番ではあるんだろう?」

 いつもの通り、幽霊部員ばかりで寂しいからと連れてこられた美術室で、熱心に筆を動かす暖簾。
 その後ろに座りながら宿題を進める無所属の私に、これまたいつもの通り暖簾が手を動かしながらちょっかいをかけてきた。
 私からは後ろ姿しか見えないが、きっと奴の口元は人を馬鹿にしたような薄笑いが浮かんでいるのだろう。
 面倒に思いながらも、話に付き合わない限り延々と声をかけ続けてくるのは既に知っていたので、大人しく暖簾の言葉に答える。
「釘糠。言っておくがな、屁理屈なんてものは大抵誰でも、なんにでもつけられるようなもんなんだ。
世に蔓延るクレーマーを見ろ。彼らは屁理屈を捏ねることを商売としているようなもんなのさ」
「それ自体が既に屁理屈だろ……。
まあ、いいや。これはちょっとした頼み事でもあるんだから、ちゃんと聞いてくれよ」
 いつも通りにへらへらした奴の態度から、「頼み事」、なんて似つかわしくない言葉が出たことに、少なからず驚いた私は、「言ってみろ」とつい答えてしまった。
 いった直後、後悔した。こいつと絡んでよかったことなんてほとんどないのだ。大抵いつも、碌でもないことに巻き込まれるのがオチなのだ。
「ふぅん、てっきり断るかと思ってたけど。 意外だな、自分からの頼みごとを聞いてくれるなんて、拾い食いでもしたのか?」
「生憎と、私は腹も壊していなければ頭も壊れていない」
 失礼なそいつを背中越しに睨みつければ、「悪い、悪い」とちっとも悪びれていない、笑い声を含んだ形ばかりの謝罪が帰ってきた。
「それで?要件っていうのは何だ。私は宿題に集中したいから、早く話せ」
「ああ、それなんだがな。失せ物探しを頼みたいんだ」
「……そんなもの、自分でどうにかしろよ」
「まあ、これが自分だけのだったらお前にも頼らず自ら探していたんだがな、」
 嘘だ。
 こいつが言う「自ら」なんて、当てにならないのは知っている。
 呆れた顔で、奴の後頭部を見ていると、一旦そこで言葉を区切った暖簾が私の方に目を向けた。

「自分含め美術部員のスケッチブックが、消えた」

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