他メンバー

□夏の秘密
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チャニョルが俺の手を引いて連れて行ったのは体育倉庫やった。

「いや、暑いやんっ!ほんで、埃っぽいし…」

「大丈夫!高窓開けとくし、それに僕ミニ扇風機持ってるから」

チャニョルが徐にミニ扇風機を取り出し電源を入れた。
いやいやいや、なんやねん!その爽やかなドヤ顔!
ほんで今それ、どっから出してきてん??
お前はマジシャンかっ!

「それに部活始まるまでの間だけのことやし…ここでしよ?」

またそのクリックリッの目ぇで、しよ?じゃないねん…
はあぁ…いや…もう…抗うのも疲れるわ……なんか…もう、ええか……
俺は観念してチャニョルと同じくマットに腰を下ろした。
所詮、俺はこの大型犬には勝たれへんねん…
もうこうなったら全力でやらしていただきますよ!!
俺は完全に開き直って……ついでに、頭のネジも勢いよくどこかに飛んでいった。

「わかった!じゃあ、チャニョル君、俺!…っじゃないわ、私のことはベッキョン!…ベッキョンやったら女の子っぽくないか?んー…じゃあ、ベキ!ベキって呼んでね♡うふ♡」
俺は喉から甘ったるい猫なで声を捻り出し、合わせた両手を右頬にピッタリとつけて首を傾げた。目をパチパチと瞬かせチャニョルを見上げる。

「あの、名前はそのままでいいから…」

「でも、そのまま男の名前やったら感じ出やんくないか?」
ってゆうか、そのままやったら、それはもう…俺やん?

「いや…そのまま…そのままがいいねん」
そう言って俺を見るチャニョルの目がなんか真剣な気がして気圧されてしまう。

「わ、わかった…えっと、じゃあ…チャニョル君の…趣味!趣味は何ですか?」

「趣味は…ギターかな…」

「うわぁ〜かっこいい♡!好きな食べ物はぁ〜?」

「…甘い物好き…」

「へぇ〜そうなんやぁ!チャニョル君たらっ可愛いっ♡特に何が好きなの?」

「チョコレート…」

「そっかぁ!バレンタインにはたくさん貰えるやろねぇ〜チャニョル君モテるやろうし♡」

「………」

何を質問しても反応が薄い上に黙り込んでしまうチャニョル。
おい、こんだけ俺がノリノリでやってるねんからお前からも何か聞いてぇや?俺、全力で応えたるで??

「チャニョラ、さっきから俺ばっかり質問してるやんかぁ。会話はキャッチボールやぞ??お前からも女の子に質問せなぁ」

「………」

「んー…それか話すの苦手やったら無理に話そうとせんと、とことん聞き役にまわってもええんちゃうか?とにかく相手の話を聞いてあげる。真剣に相槌打つ。それだけでもええやん」
俺は何となく元気がないように見えるチャニョルを励ましたくて言葉を続けた。

「話すのが苦手でもお前がええ奴ってことは相手にも伝わると思うで?お前の良さは俺が保証するやん!」

そこで俺の話を黙って聞いていたチャニョルが漸く口を開いた。

「………ベッキョッナ」

「ん?」

「……僕な、根本的に女の子苦手なんを克服したいから…それには会話の練習とかより、もっとこう……荒療治みたいな方がええかもしれへん……」

「荒療治…??」

「うん…例えばスキンシップとか…」

チャニョルは目を伏せて僅かに間を置いてから次の言葉を継いだ。

「…手ぇ繋いだらアカンかな…」

テヲツナグ……???
手を繋ぐって…俺と、か?!

「……あんなチャニョラ、会話の練習するぐらいやったらまだ俺でも役に立てるかもしらんけど、女の子苦手なんを克服するのが目的の荒療治やのに相手が男の俺やったら意味ないやろ?男の俺とスキンシップして女の子に免疫つくとはとても思われへん…」

「じゃあ、お芝居とかはどうなるん?男の人が女役やってラブストーリー演じたりするやん?相手役の人はお芝居の間はちゃんと“女の恋人”として思ってるんとちゃう?それと同じなんとちゃうかな。僕は意味ないとは思わへんよ」

「いや、ほんまに“女の恋人”と思えてるかはわからんやん?それに、そもそもそれとこれとは別y……」

言い終わる前にチャニョルは俺の手を掴んだ。怯んでしまいそうなほど真剣な目で見つめられる。

「意味あると思う…ベッキョンとやったら…」

チャニョルは俺の手を両手で包み込んだ。そして徐に、親指から順番に指の一本一本を付け根から爪先に向かってそっと撫ではじめた。

「……綺麗な手やね」
小指まで撫で終わるとうっとりと呟いた。掴んでいた手を離し腰を浮かせたかと思うと、チャニョルは向かい合わせの場所から俺のすぐ隣に座り直した。
隣に来たあと、また俺の手を握る。今度は右手でぎゅっと痛いくらい強く握り繋がれる。チャニョルはその手を自分の胸のそばに持っていっていき抱き抱えるようにして言った。

「しばらくこのままでおろう…?」

大きな瞳でこちらを覗き込まれて頼まれたら、この目に弱い俺が断れるはずがなかった。
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