セジュン
□世界でいちばん好きな人
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午後10時過ぎ。セフンはジュンミョンの部屋のインターホンを鳴らした。
いくら鳴らしても反応がないことに焦れて握り込んだ拳で扉をドンドン!と叩きつける。来る途中アパートの部屋の窓に灯りがついているのが見えたからジュンミョンは必ずいるはずだった。セフンは合鍵を返さなければよかったと心底後悔した。別れようと言われた次の日、会社の廊下ですれ違ったときににべもなく鍵を差し出すよう言われて渡してしまったが、こんなにも彼に会えないほんの数分がもどかしくてたまらないとわかっていたなら絶対返したりしなかった。
続けて三度ほど扉を叩いたとき、ゆるゆると扉が開いて、着古した部屋着姿のジュンミョンがやっと顔を出した。
「おい、近所迷惑だからやめろ……って、おいっ!」
セフンは扉の隙間に手を差し入れグイッと開くと、無理矢理部屋の中に押し入った。慌てるジュンミョンを無視してその細い首筋にしがみついた直後、背後でバタンッ!と大きな音を立てて扉が閉まる。
「おい!離せよっ!」
セフンは腕の中でじたばたと暴れるジュンミョンをこれでもかと強く抱きしめ、耳元で囁いた。
「ねぇ、俺のこと好き……?」
セフンは腕の力をさらに強める。けれど、ジュンミョンはセフンを引き離そうと腕の中で必死に抵抗を続けた。
「お前とは別れるって言ったじゃないかっ……離せよっ!」
「俺が結婚もしない、会社なんて欲しいと思わないって言っても、同じように言える……?」
そう言った瞬間、腕の中で暴れていたジュンミョンの動きがピタリと止まる。セフンはジュンミョンを抱きしめたまま、再度訊ねた。
「ねぇ、俺のこと好き?」
セフンは腕の力をゆるめ、ジュンミョンの顔を覗き込んだ。きれいなまあるい瞳が戸惑うようにゆらゆらと揺れる。
「ねぇ……」
セフンは、困惑して立ち尽くすジュンミョンの頬をそっと両手で包み込み上向かせると、その固く引き結ばれた唇に赤ん坊にするみたいな優しいキスを落とした。そして口づけを解いたあと、もう一度ジュンミョンの顔をじっと覗き込む。ジュンミョンの表情がみるみる泣きそうに崩れていく……
「ねぇ、言ってよ……俺のこと好き……?」
「…………好きだ……」
震えたか細い声がセフンの耳にしっかりと届く。
「好きに決まってるだろうっ!!」
ジュンミョンは苦しげに叫ぶと、瞳から大粒の涙をぼろぼろとこぼし、しゃくりあげて泣いた。
セフンはジュンミョンを素早く抱き寄せ、その唇を襲うように猛然と口づけた。何度も何度もジュンミョンの唇を啄みながら潰れるほど強く抱きしめる。涙の味がする、しょっぱいキスを夢中で交わしたあと、ジュンミョンをかき寄せ震えた声で言った。
「俺も……俺もジュンミョンが好き。世界でいちばん好き。愛してる……俺はジュンミョンさえいてくれたら何もいらないから……だからもう、嘘ついたりしないで……誰になに言われても揺れたりしないで……俺を信じて……お願い、お願いだから……こんな風に終わらせたりしないで……」
セフンの腕の中で、ごめん、悪かったとくぐもった涙にむせぶ声が聞こえる。
俺の方こそごめん……辛い思いさせてごめん……セフンは心の中で何度も呟いた。言葉の代わりに何度も口づけ、そして抱きしめる。
この幸せを誰にも奪われたくない。彼を誰にも奪わせたりしない。
セフンは世界でいちばん大好きで、大切な人を強く抱きしめ、その腕の中に閉じ込めた。