ジュンミョン・他メンバー&セフン・他メンバー

□やさしい、ともだち
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「ミンソガぁ〜」

「おーおー、もうやめとけって、飲み過ぎだっての」

ミンソクがジュンミョンの手から焼酎の瓶を取り上げると、うつらうつらしながらもなんとか開いていたジュンミョンの目が完全に閉じられ、テーブルに突っ伏してしまう。
ミンソクは今夜、大学の頃から付き合っていた彼女に振られてしまった友人のやけ酒に付き合う羽目になっていた。

「俺のなぁ〜にが悪かったのかなぁ……なぁー、ミンソガぁ〜俺のなにが悪かったと思う?ねぇ〜?」

ジュンミョンの彼女はずっと二股をかけていたらしかった。ジュンミョンがそのことを知ったのはサプライズで渡そうと婚約指輪をこっそり買いに行ったとき、ブライダルジュエリー専門店で相手の男と彼女に鉢合わせしたからだった。

「お前はなんも悪くねぇだろ……」

「本当ぉ?そう思うー?そっかぁ…じゃあ、なんで俺じゃダメだったんだろなァ……」

しばらくしてグスッと鼻を啜る音が聞こえてくる。つむじしか見えない頭がわずかに震える。
ミンソクとジュンミョンは大学で出会った。だから、彼女と付き合い始めた頃から知っている。ジュンミョンが彼女に告白してOKをもらえたと嬉しそうに報告してきたとき、ミンソクはおめでとうよかったなと言ってやった。精一杯の笑顔を顔に貼り付けたつもりだが、うまく笑えていたかどうかはわからない。ミンソクはジュンミョンのことを初めて会ったときから好きだったからだ。友達のフリをして、一番の理解者のフリをして、誰よりも自分が彼に惹かれていた。それは社会人になった今も変わらない。

「なぁ、ジュンミョナ……俺じゃダメか……?」

ジュンミョンの哀れな姿を見ていられなくて思わず口を衝いて出ていた。俺だったらお前を泣かせたりしない。絶対悲しませない。俺だったら、いくらでも甘やかして、優しくして……ずっとずっとそばにいてやる……
初めて口にした本音だった。沈黙が長く、痛い。ジュンミョンは何も言わない。沈黙を破ったのは店の店主だった。

「すみません、もうそろそろ閉店時間なんでねぇ……」

「すみません」

「お客さんも起きてちょうだいよ」

ジュンミョンが店主に肩をトントンとたたかれる。返事がないと思ったら寝ていたらしい。ミンソクはそれを知ってわずかに胸を撫で下ろした。



会計をして、酔い潰れたジュンミョンをおぶって店を出た。猥雑な夜の繁華街を通り抜けると、静かな住宅街に出る。店からジュンミョンの家まで多少距離があったがおぶって送っていくことにした。少し歩きたい気分だった。
ジュンミョンの家へ向かう道中には桜並木がある。
ミンソクはその道をジュンミョンを背負って一歩一歩ゆっくりと歩いた。足下には散った花びらが敷き詰められ、見上げると夜の闇の中に淡く発光しているような桜が咲き乱れている。ミンソクは桜の季節になるといつもジュンミョンと出会った入学式の日を思い出す。
ジュンミョンはあの日ひとり桜を見上げていた。ミンソクは大勢の学生たちで賑わうキャンパスの中で、その横顔に目がとまるとなぜか釘付けになった。あまりに熱心に見ていたせいかジュンミョンがこちらを振り返る。そして、ゆったりと微笑んだ———ミンソクはその瞬間、胸が鷲掴みにされたかと思った。彼のそばにある桜が霞んで見えるくらい、可愛らしかった。誰かのことをそんな風に思ったのはそれが初めてだった。
それから講義で一緒になって、ジュンミョンの人懐こさのおかげであっという間に仲良くなった。ミンソクがジュンミョンのことを恋愛対象として好きになるのもあっという間のことだった。

ミンソクは足下に目をやりながら、往来する人々に無残に踏み潰されたアスファルトの上の桜の花びらが、まるで自分のようだなと思った。
自分の背中で寝息を立ててる人から彼女を紹介される度、好きな人の相談をされる度……傷付いた。何度も何度も心を踏み潰された。自分はなんて不毛な恋をしてるんだろう、いいかげん諦めよう、そう思うのに自分の物であるはずの心は何ひとつ言うことを聞いてくれなかった。自分のことを親友だと言ってくれる彼を突き放すことも出来ず、気が付けば7年もズルズル彼と一緒にいる。本当に心底馬鹿だと思う。だけど、ミンソクはこの恋を終わらせる術を自分では全くわからないのだった。


ジュンミョンの住む部屋までたどり着き、暗証番号を押してドアのロックを解除して中に入った。ベッドにジュンミョンの体をドサリと下ろすと、苦しいだろうとネクタイを取ってやり、せめてスーツの上着だけでもシワにならないようにと脱がしてハンガーにかける。
なんでこいつじゃなきゃダメなんだろう……見向きもされないのに。恋人になんてなれやしないのに。
ミンソクはベッド脇に座り何も知らずに眠る男の顔を眺めた。枕元のテーブルランプに照らされて長い睫毛の影が落ちてる。スッと通った鼻筋。小さくて可愛い唇……誰かの物になんてなるなよ……俺がいるじゃん。気が付くと涙がこぼれていた。お前が好きだよ、ジュンミョナ……

「ミンソガ……」

突然名前を呼ばれ心臓が縮み上がった気がした。慌てて何事もなかったかのように涙を拭う。

「あぁ、起きたのか……水でも飲むか?」

立ち上がり、何度も訪れ勝手知ったる家の冷蔵庫へと向かう。しばしの沈黙のあとジュンミョンが躊躇いがちに口を開いた。

「……ごめん、俺……さっき店で言ってたこと、本当は聞いてた……」

ミンソクはギクリとして固まった。心臓が早鐘を打つ。振り向くことも、返事をすることも出来ない。

「ほんと、ごめん……」

聞かれていなかったのならまた友達に戻ることも出来たのにもうそれすら叶わない……ミンソクは固く目を閉じた。ジュンミョンはミンソクの背中に向かって話し続ける。

「ミンソクがそんな風に思ってること俺知らなくて……正直、動揺した。ずっと友達だと思ってたから……だから、その、俺はミンソクのこと……」

恋愛対象とは思えない……だろ?ミンソクは自分のことは棚に上げて、言い淀むジュンミョンが気の毒にさえ思えた。俺は優しい親友に酷なことをさせてる……

「ばぁーか。冗談に決まってんだろ?あんまりお前が落ち込んでるもんだからさ、ちょっと元気づけようと思っただけだっつーの。だから、そんな泣きそうな声出すなよ。じゃ俺明日も仕事だし、帰っかんな」

振り向きもせず、足早に玄関に向かう。扉を開こうとしたとき左腕を掴まれ、無理矢理体を振り向かされた。

「泣いてるのは俺じゃなくて、ミンソクだろ……?」

そう言われて、いとも簡単に堪えていた涙がボロボロとこぼれ落ちた。ジュンミョンの眉根が寄る。そのまま掴まれていた腕が引かれ抱き締められる。

「ごめん、ずっと俺、無神経だったよね……ごめん」

ぎゅっと抱きしめる腕に力が入る。

「なに謝ってんだよっ、違うって言っただろ?もう、離せって!」

ジュンミョンの腕の中で離れようともがくけれどびくともしない。

「ミンソガ……俺に時間くれない?」

何の…?と思うそばからジュンミョンが言う。

「今は彼女と別れたばかりでまだ気持ちの整理が出来てないからもうちょっと時間がほしいんだ……ミンソクのことちゃんと真剣に考えたい」

こいつはどこまで……お人好しなんだ。男同士なんだから考えるまでもないだろ。そう思うのに泣けてくる。ありえない、気持ち悪いと切り捨てずに真剣に考えたいと言ってくれる……俺が好きになったのはこういう奴だったと改めて思う。だからこんなにも好きになったんだ、と。

「ばか。時間の無駄だからやめとけ……」

「そんなことわかんないよ。だってほら、」

右腕を掴まれてジュンミョンの心臓の上に手を置かされる。手に伝わってくる鼓動は驚くほど速かった。

「やばいでしょ?」

ジュンミョンが照れ臭そうに笑って言う。

「俺、彼女に二股かけられてた理由がわかったかもしんないな……」

「え…?」

「ううん、こっちの話」

ジュンミョンは苦笑すると、ミンソクの目尻を指でそっと拭った。

「だから、もう泣かないで……」

そう言うと、ジュンミョンはゆったりと微笑んだ。それは、柔和な優しいものだけれど胸をどうしようもなく騒がせる微笑みだった。


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