書籍
□Web拍手お礼3
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薄く描かれた唇を許してしまえば、あとは簡単なことだった。
彼女は自分の意識ない内で突き動かされた衝動のまま、熱の籠った感情に割れ入っていく。
入った瞬間、熱とともにざらついた感触が呼び寄せ、ぬめりとしたひどい欲に絡み取られる。
「っ……ん、」
ひとつの欲望を押し付けられ、彼女はぶるりと震えて耐えることしかできなかった。
くちゅりくちゅり、と体液が混ざる咥内に自身の指先を根まで咥えられている。
視界には、わざわざ彼女の視線に合わせている男の姿。
男に手首を掴まれ、抱かれるように壁際に囲われれば、彼女はなす術もなくなってしまう。
男は、そのまま掴んだ手を引いて、自分の欲に従った。
くちゅりくちゅり、と卑猥に体液が絡む音と、あまり良い感触とはいえない生暖かいもの。
彼女の指先の根までを咥え込み、男はたいそう楽しそうであった。
「っ……ん、……んぁ、…」
ざらついた血の固まりが、白く薄い指先を包むようにすれば、触れた箇所からじわりと体液が滲みていくようだった。
彼女の血液と同化してしまうのではというほどに強く吸われ、口の端から声が漏れる。
文学者にとって、思考に組んだ物語の言葉を具現するには、文字を記す指先が必要になる。
声を発せられても、それを白紙に綴れなければ、思考は妄想で終わってしまう。
極限にいってしまえば、物語をつくる脳ミソと、それを書くための指先があれば良いのだ。
だから、志賀にとって指先とはなくてはならない身体の一部位であり、求めるべき嗜好であった。
彼女の薄ら白く映えた指先は、志賀にはご馳走のように見えてならない。
志賀のざらついた舌が、彼女の指先の垢ごと舐めとるように唸ればたちまち浅ましい感情でさえも押し込められる。
「あんたのゆび、本当にきれいだな…」
唾液混じりに、指先を咥えたまま志賀はその恍惚の目線で彼女を見やる。
彼女は、志賀の聖域を見るような表情のつくりに一瞬の怯えを感じながらも、すぐに志賀との体液でいっぱいの指先に沈む。
「今度、このゆびで俺の本をつくってくれないか?」
彼女の白く甘い指先の味を舌と体液で溶かすように感じ、この指先ならと志賀の脳に人物と背景が浮かんでいく。
志賀に融解された彼女は、体液の生暖かい感触を悦に頷く以外の選択肢を持ち合わせてはいなかった。
彼女の肯定した動きに、志賀はその表情のまま口の端をわずかに歪める。
この綺麗な指先に何て言葉を書かせようか。
にやりとした志賀の思考など露も知らず、彼女は神様に選ばれた悦びだけを感じていた。