ただキミといたいだけ

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遠くからジリジリと音が聞こえる。

意識が戻って、ぼやける視界に映る見慣れた天井。
大きく伸びをしながら布団から出る。
いつものように布団をベランダに干してから身支度を整える。

まだ静かな家の中を忍足で歩き、台所に向かう。
炊飯器に電源を入れて、鍋に火をかける。
味噌汁が出来上がる頃、養父であり、花火職人でもある花菱茂男が起きてくる。

「おはよ、お父さん」
「おはよーん、名無し〜〜」

笑顔がだらけきっていて、思わず苦笑い。
溺愛されていることはずいぶんと前からわかってて。

茂男はいつもの日課である、棚の上にある嫁の遺影の前で手を合わせると、洗面所に向かいタオルを頭に巻く。

桜花様にホント似てる…

その間、名無しは朝食をテーブルに並べ茂男にお茶を入れる。

「あのバカ息子は、まだ寝とるのか?」
「うん。そろそろ起こしにいかないと…」

名無しは濡れた手をエプロンで拭きながら、2階へ上がる。
手前の襖を開けると、そこには幸せそうな寝顔でスヤスヤと寝ている人物がいて。

小さく溜息を吐いて、枕元にある時計を少し離れた場所に。
肩を揺らしながら、声をかける。

「烈火、起きなさい。学校遅れるよ」
「むにゃ、、あと…ご、ふん」

ハァ、と息を吐くと茂男がやってきて。
名無しはすぐ烈火から離れると、茂男の強烈なアッパーが烈火に炸裂した。
烈火の体は、天井に届きそうな程飛び上がり布団から出る。

「オヤジ、俺今何かしたか?」
「はよ、起きろバカ息子が!」

烈火と茂男の恒例の朝の喧嘩が始まる。
その隙に布団をベランダに干し、1階に戻る。

しばらくして、ドタバタと騒がしく降りてきた烈火と茂男はテーブルに並ぶ朝食を食べ始める。
そこでもまた食事の取り合い。
名無しは2人を放置し、身支度を始める。

「いい加減にしなさい!」

もう出かける頃に、名無しの怒鳴り声が家に響く。

「烈火!あんたは学校行く!」
「お父さんは仕事する!」
「「は、はいっ!!」」

ドタバタと騒がしく家を駆け回り、烈火は学校へ。
茂男は、テーブルに並ぶ空の食器を台所に戻し皿洗い。
ふん、と鼻をならして台所に顔を出す。

「あとよろしく、お父さん」
「おう。気をつけて行ってくるんだぞ、名無し」
「はーい。行ってきます」

カバンを掴んで、大学へ向かう。
こんな生活ができるのも茂男のおかげだ。
あの頃とは系統の違う服をきゅ、と掴む。

紅麗くん、どこにいるの…

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