ただキミといたいだけ

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池の近くまで来たが、紅麗らしき子供は見当たらず、近くの岩に腰を下ろす。

ここはとても良い村だ。
風が心地よい。

そよそよと吹く風を感じていると、背後から大きな声が聞こえて来た。
何か揉めているようで。

身を隠しながらその場に行ってみると、一人の子供に数人の子供が石を投げていて。

「呪いの児だ!」
「早くどっかいっちゃえ!」
「いっちゃえ!」

小石が男の子のこめかみに当たり、血が流れる。

名無しは考えるよりも先に体が動いていて、男の子と子供達の間に両腕を広げて男の子を庇うようにして立った。

「止めろ!こんな事をしてカッコ悪いと思わないの?」

ジロと子供たちを睨む。
ガキ大将みたいな子供が声を上げる。

「うるせー!誰だお前!」

石を名無しに向かって投げるが、名無しが指先を軽く振ると、その石は宙に浮いて止まった。
そして再び指を振ると、その石はガキ大将の頬を掠め、後ろの木に飛んでいく。

「風影当主の娘、名無しだ!文句があるならいつでも来い!」

ガキ大将の頬からツウと血が流れる。
うわぁあ、と叫びながら、子供たちはその場からいなくなった。

振り返り、男の子と視線を合わせる。

「大丈夫?これ当てて?」
「…別に助けて欲しいなんて言ってない」
「あ、そうだね…けど体が勝手に動いちゃったんだ」

ニコと笑いながら、血が流れるこめかみに布を押し当てる。
桜火に相談して手当をお願いしようと、考えていると、男の子は小さな声でボソッと言う。

「ありがとう…」

それが聞こえて、思わず笑みがこぼれる。
うん、と大きく頷く。

「あたし、名無し!貴方は?」
「紅麗…」
「貴方が紅麗くん?桜火様に先ほど貴方の話を聞いたよ!自慢の息子だって!」

ニコニコと楽しそうに笑う名無しの言葉に、一瞬目を見開く紅麗。
俯いてしまうが、その口元は嬉しそうに弧を描いていて。

「ねねっ、紅麗くん。一緒に遊ぼ!」

こくん、と小さく頷くと立ち上がり、後ろの家に入っていく。
中から入れ、と紅麗の声がして紅麗の後を追いかけた。

ここは紅麗の家のようだ。
中には床に伏せている女性がいて、すぐに紅麗の母、麗奈だとわかった。

「ゴホゴホ…紅麗、その子は?」
「名無し…風影頭首様の娘です」

友になりました、と麗奈の背中をさすりながら紅麗の口から告げられる。
麗奈は驚いて目を見開き、名無しを見る。
名無しは土間で頭を下げる。

「名無しです。突然お邪魔して申し訳ございません」

顔を上げてニコニコと裏表のない笑顔を浮かべる名無しを見て、麗奈は小さく微笑う。

「そう…私は紅麗の母の麗奈よ。紅麗と仲良くしてあげてね」
「はい!」

この後、日が暮れるまで3人でいろいろな話をした。
そして、いろいろな話を聞いた。

火影忍軍六代目頭首・桜火と側室・麗奈との間に、炎術士として紅麗が生まれたこと。
炎術士は一世代に一人しか生まれないとされたが、烈火の誕生により「呪いの児」の烙印を押され、母親と共に村八分にあっていること。

名無しは何も言葉が出てこなくて、口をきゅと結んでしまった。
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