ただキミといたいだけ

□02
2ページ/2ページ



牢に着くと男が2人いた。
名無しに気づいた男が慌てて跪く。

「名無し様…!?里にいらしゃって…」
「はい、先ほど来ました。牢にいる紅麗くんに会わせて頂けますか?」
「し、しかし…」
「友に会いに来たのです。文句は言わせません」

その時、一羽の鳥が男の肩に止まる。
その脚には手紙が巻いてあり、そこには桜火からの言伝があるようだ。

「牢の奥に紅麗はおります。途中、他の罪人もおります。途中まで…」
「いりません。ありがとう」

名無しは迷うことなく、牢に入っていく。
壁に備え付けられている蝋燭の火がユラユラと揺れているが、薄暗く足元は暗い。

牢の中には、ちらほらと人がいる。
直接絡んではこないものの、ケタケタと小さな笑い声がして気味が悪い。
だが、まっすぐ前を見て、耳を貸さぬよう先を進む。

角を曲がると、一人の見張りがいて。
何も言わず、長く太い火の燈った蝋燭を渡す。
それを受け取り、さらに奥へと進む。

木の格子の牢。
その中に小さな人影が。

「紅麗くん…?」

蝋燭の灯りを牢の中にむける。
そこには、やつれた姿の紅麗がいた。

「名無し…か?」

名無しは蝋燭をおいて、格子の中に手を伸ばす。

「紅麗くん!紅麗くんっ…!」

その手にそっと触れる手。
蝋燭に照らされた紅麗の顔。

会えた。

名無しは笑顔を浮かべ、腕だけで紅麗を抱きしめる。

「ただいま、紅麗くん」
「名無し…戻ってきたのか…?」
「当たり前だよ!約束したもん、」

紅麗は名無しの頬を撫で、ぎゅうっと抱きしめる。
コツンと額を合わせて、離れていた分を埋めるよう見つめ合う。

「ご飯ちゃんと食べてる?」
「…あぁ、」
「もう!すぐ嘘つく!」

食べてないじゃんか、と善に乗る食事を指差す。
ぎゅうと手を握り小さく笑う。

「味がしないんだ、名無しがいなくなってから…」
「、今いるよ!ほらっ」

食べて食べてと、紅麗の背中を押す。
名無しには敵わないと、紅麗は諦めたように食事をとる。

以前と同じように、たわいもない話をした。
どのくらい話をしていただろうか。

蝋燭はいつの間にか短くなり、今にも消えそうで。
気になっていたことを聞いてみる。

「いつ…ここを出られるの?」

烈火と紅麗が兄弟と言えど、炎の子と呪いの児。
それなりの処罰があるはず。

「一生ここで生きていくらしい…」
「え…」

紅麗のきゅ、と握る手が小さく震えているのが伝わった。
心なしか声も震えていて。

「だから、、俺のことは忘れ…」
「イ・ヤ・だ!」

名無しは、紅麗の手をぎゅうっと握り締める。

「あたし紅麗くんのこともう覚えちゃってるし、忘れることなんて出来ないもん!だから…ずっとずーっと一緒にいよう?」

毎日毎日会いに来るから…

そんなこと無理なのに、けど名無しが言うと本当にそうなりそうで…
紅麗は小さく笑った。

「そうだな…俺も名無しと一緒にいたい」

クスクス笑い合って、額と額を合わせた。

「母上を頼む…」

紅麗の絞り出したような声。
名無しはこくんと大きく頷く。

「名無し様、そろそろ牢を閉めます」
「…わかりました」

後ろ髪引かれる気持ちで、紅麗を見つめる。
そして紅麗の頬を撫で、その頬にフニと唇を合わせる。

「また明日来るね、紅麗くん」
「あぁ…」

見張り番と共に名無しは、紅麗を振り返りながらその場を後にした。
その足で名無しは、麗奈の元へ向かった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ