ただキミといたいだけ

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「ごめんなさい、、烈火とは血が繋がってないんです…よくわからない…」

嘘。

茂男をあの時代のいざこざに巻き込むわけにはいかない。
桜花にすごく似ているが、桜花ではない。

「そうか…話は変わるが、最近、お前の様子がおかしく感じるんだがなんかあったか?」

さすが、というべきか。

茂男は、雰囲気といい、顔つきといい勘までも桜火に似ている。

「その…ちょっと大学で友達とケンカしまして、、」

茂男の目を見て、やっと決心がついた。

麗奈も言っていたが、1人より2人でいる方がいい。
紅麗を1人にさせていたくない。

いや…
あたしが紅麗くんといたいだけか…

適当に嘘をつき、名無しは少し後ろに下がる。

それに、一緒にいることで危険な目に巻き込むわけにはいかない。

烈火の母親だと名乗る女のこと、2人の知らない所でケリをつけた方が良い。

「ご迷惑をおかけして申し訳…」
「名無し、お前たちや、お前たちに関する事で迷惑だと思った事はない。俺たちは、家族だ」

いいな、と茂男のトーンが下がる。
茂男の優しさが嬉しくて。

「さて。花火を作るか。この話は終わりだ」
「はい、」

茂男が仕事場に向かい、名無しは窓の外を見る。

少し曇ってきている。
雨でも降るのだろうか、なんてぼーっと空を眺めていたら、パラパラと雨が降って降り出した。

長い時間、ずっとぼーっとしていたようだ。
時計の針は正午を過ぎていて。

よし、と気合を入れて、家中の片付けを始めた。

部屋の片付けもするが、もともと物が少なく、あっと言う間に終わった。

先ほどまで土砂降りだった外が、からっと晴れていた。

いつも通り、買い物に出かけようと玄関を開けると、黒塗りの高級車が家の前に停まっていた。
ドアが開き、そこから紅麗が現れた。

「く、れ…」
「迎えに来た、名無し」

烈火と茂男との別れはすぐに来た。

覚悟を決めた後でよかった。

名無しは住み慣れた家を見上げ、小さく、さよなら、ありがとうと呟く。
そして、迷うことなく紅麗の手をとった。
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