飛花落葉

□神隠し
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「主がいない!」

そう騒ぎ出したのは加州清光だった。
誉を起こしに行った短刀が部屋に行くとそこには誰もいなかった。本丸内を探しても誉の姿は何処にもない。いよいよ大変だと騒ぎたした刀剣達。山姥切国広が思い出したかのように走った。
本丸の裏、小さな小道を走って行くと少し開けた野原がある。大きな木の根元にもたれ掛かるように眠っている誉の姿がそこにはあった。

「やはりここか…」

同じような事を経験した山姥切だからこそこの場所を当てることが出来たのだ。
ゆさゆさと揺すればパチリと目を開けゆっくりと起き上がる。

「...あぁ、おはよう」

「どれだけ心配したと思っている!皆必死に探したんだぞ!」

怒鳴る山姥切を誉は変わらぬ表情で見ていた。

「なにか言えよ...」

悲しそうにそう呟いてみても誉には求めるだけ無駄だと山姥切は知っていた。

「ごめんな。そんなに怒るとは思わなかったんだ」

そう言って布越しに頭を撫でる。
悪いなんて思ってない癖に。こうゆう事をするから自分の主はタチが悪い。

「主!」

「こんなところにいたのですね」

後をつけてきた刀剣達は誉がもたれ掛かっている大きな木を見上げる。

「主様、これは何の木ですか?」

「分からないなぁ。花が咲いたことも葉をつけたこともない木なんだ」

短刀達が物珍しそうに気に触れ、登ったりして遊び始めた。

「もう主!勝手にどっか行かないでよね!」

「そうだよ。みんな心配してたんだから」

ぷりぷりと怒る加州。ごめんごめんといつもの調子で誉は苦笑いをする。

「そういえば...揃ってきてたとは思ってたけど、うちにはあの子がいないね。粟田口の...」

「平野、ですか」

大和守の声に反応したのは一期一振。溜息をつきながら遊んでいる短刀達を眺める。

「比較的顕現しやすい筈なのですが...主、ご尽力お願いしますよ」

「分かってるよ」

一期の願いはこのあとすぐに叶えられることとなる。一期にとってはとても残酷な形で。
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