飛花落葉
□トラウマ
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本丸に大分刀が集まった時、誉はやつれていた。
「主様っ!早く起きてください!」
「はやくはやく!」
前田藤四郎がカーテンを開け、今剣が布団をかぶっている誉にまたがっている。ほっとけば永遠に寝ている誉をどうにかしようと燭台切光忠が短刀達に提案したのだ。
「主君、お茶を淹れてきましょうか?」
「...大丈夫ー。......もう少ししたら行くから...」
「では今剣殿、行きましょう」
「きょうもぼくとあそんでくださいね!」
軽い身のこなしでベッドから跳ね降り、二人共部屋をあとにした。
身支度をすませゆっくりと縁側を歩いていけば後ろ袖を誰かに引かれた感覚。
「ん?今日は狐一緒じゃないの」
もともと自分から話さない誉は鳴狐の本体と話したことがなかった。
これは鳴狐が本丸に来た時の話。
「やあやあこれなるは...な、何をします主様!」
「おいで油揚げあげるから」
そう言ってお供の狐の方を抱いて部屋を後にした誉。鍛刀部屋に残された鳴狐に山姥切が声をかけた。
「あいつは動物が好きらしくてな。気を落とすな」
最初のこのやり取りがトラウマとなったのだが鈍感な誉は全く気づかず、今に至る。
「.........」
「大将ー!今剣が呼んでるぜ」
「げっ...」
遠くからの薬研の声に顔を歪めた誉。
くるりと自室へ向くとそのまま鳴狐に手招きをした。短刀が起こしに来る以外ほとんど誰も部屋に入れない事を知っていた鳴狐は部屋に入ることを拒んだ。
「いいものあげるから入んなよ」
短刀しか入ったことのない部屋に足を入れるとそこには大きなベッド。本棚には古い本が隙間なく並べられていた。
「ほら」
渡したのは西洋風の焼き菓子。ふんわりお酒の甘い香りがする。
「朝は勘弁して欲しいよなぁ...」
溜息をつきながら誉は菓子を食べ始める。それを見て鳴狐も少しずつ菓子に口をつけた。
「おいしい...!」
「だよね。西洋の菓子は本当にうまいよ」
幸せそうな表情をした誉を見て気づいた。別に嫌われていた訳では無かったのだと。誉はちゃんと自分にも目を向けてくれていた。その事実が何より嬉しかった。
「もう少し俺とさぼろうよ。ほらあそこ、小夜が柿取ろうとしてる」
小窓から風景を覗きながら手招きをした。こくんと頷いて2人は暫く外を眺めていた。