飛花落葉
□外出
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「審神者の交流会がある事はみんなも知っていると思う」
審神者同士の交流会。1人の刀剣男士を連れて参加することが条件となっているその会を誉は毎回参加拒否していた。
しかし、何故かいきなり今日、急に参加すると言い出したのだ。
「平野を連れてくから」
しかもこれである。近待はそれだけで刀剣達にとっては重要な役割を持っている。自分が1番気に入っている刀剣をそのまま連れ歩く審神者も少なくない。平野を連れていくと言った誉に嫉妬心を抱かざる負えないのだ。
「主、もしもの事を考えたら打刀や太刀の方が...」
へし切長谷部が困った様に言っても誉は大丈夫の一点張り。
「これから代わる代わるみんな連れていきたいからそれなりに準備しててね」
「本当ですか!?」
「わーい!」
らんらんと盛り上がる本丸に平野だけは複雑な表情を浮かべていた。
「見て...萩原家の...」
「初めてご出席なさるのね」
袴を来ている誉の少し後ろを平野は付いていく。何だか気を使われているようでいい心地はしなかった。
「ほら平野、短刀連れている人もいるんだからそんなに隠れないでよ」
指を指す先には薬研藤四郎を連れている審神者。顔をあげる平野は和やかに指摘した。
「主様、指を指すのは失礼ですよ」
「そうだね。ごめんごめん」
なんというか距離がある。一期一振程ではないが、誉に対してもまるで他人行儀な平野を不思議そうに見る。
会の間、横目で平野を見ながら他の粟田口と違う雰囲気の理由を考えていた。悩んでも見つからない答えに溜息をつきその日の疲れもあってか足早に本丸に戻ろうとした時だった。平野の足が止まっていることに気づき視線の先を見る。
「あぁ、今日は祭りだったっけ。見に行こうか?」
「いいえ、お疲れでしょうから本丸に戻りましょう」
その貼り付けられた笑顔に誉は違和感の答えを見つけた。
甘える事、平野はそれをしないのだ。
こんな短刀もいるのかと平野の頭をぽんぽんと撫でた。
「俺の前でくらい思いっきり羽伸ばしなよ。小夜だってもっと我儘だぞ?」
ぽかんと口を開けた平野は少し考えてから少しずつ口を開けた。
「あの方は、一期一振様の元主と私の元主は敵同士に近い存在でした」
祭囃子の音が青空に高く響いている。堰の水音に混ざりながら心地よい音を出していた。
水面を見つめながら平野はぽつりぽつりと言葉を紡いでゆく。
「一期一振様は兄弟を皆、大切に思われています。私達は刀です。やはり危険な戦いになるのであればあの方にもう辛い思いはさせたくありません」
出陣する以上、折れる刀剣も出てくるだろう。自分が折れた時、一期を悲しませたくない。そのためにとった距離だと平野は話した。
「そんな態度無駄だと思うけどね」
「全ての兄弟に分け隔てなく愛情を注ぐ方です。私の分くらいは皆に注いでもらいたいと、そう思います」
これが全てだと言うように平野は話し終えた。兄弟がいない誉には微塵も理解出来なかったが。
「平野がいいならいいんでない?でもさ、俺の前でくらいはそんな事何も考えなくていいと思うよ」
疲れるじゃん。そう誉が言うと、少し悩んだ顔をしてから平野は答えた。
「では、そう致しましょう」
にっこりと笑っている平野は誉の裾を引き祭囃子が鳴る方へ指をさす。
「沢山買ってくださいね」
無邪気な顔に安心した誉は平野と祭りを楽しんだ。
帰宅後、帰りが遅いと燭台切に怒られる事はまだ知る由もない。