飛花落葉
□恋文
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「主ー、なんか手紙が来てたよ」
内番着に身を包んだ加州が手にしていたものは茶色の封筒。
書類に追われていた誉は顔を上げた。
「またかよー」
書斎に手招きする誉を嬉しそうに見る加州。装飾されたレターオープナーで封を切ると出てきたのは押し花の栞。
手紙を見ている誉の横で栞を手に取った加州。
「綺麗だね、これ」
「…ん?あぁ、欲しいならあげるよ」
くしゃくしゃに手紙を丸めてゴミ箱に投げ入れる。
「いいの?」
「うん。俺は家にあるものしか使わないから」
じゃあ、と先に昼餉を食べに書斎から出て行った誉の様子が気がかりで、ゴミ箱に捨てられたくしゃくしゃの手紙を広げてみる。
「何これ」
それは恋文のようなものだった。
本好きの誉のために手作りした栞の事が記されていて。その手紙を握りしめて、邸内を走った加州は昼餉を食べている誉の前に現れた。
「いただきま」
ばしん、と大きな音が食堂に響く。
短刀の悲鳴で頬を平手打ちされた誉はゆっくりと加州を見た。
「うーんと…何?」
そんな誉の顔に余計腹が立って。加州は手紙と栞を押し付ける。
「主の馬鹿!」
部屋を飛び出した加州は部屋に閉じこもっていた。
度々失踪する誉を見ていた刀だけに本丸内から逃亡することは無かったが、夕餉にも食堂に現れず同室の安定が様子を見に来た。
「早く湯殿にいってきなよ」
「…」
「手紙、見たよ。でも主はああゆう人だろ?今更…」
「別に同情したわけじゃない。だけど主はあの手紙を読んで、俺にあの栞をくれるって言ったんだ」
「それで?」
「俺達もあの栞みたいにすぐ捨てられる。俺達の想いも覚悟も、主には何も伝わってない」
「それは主に聞いてみないと分からないんじゃない?」
「でも…」
「燭台切さんが清光の分の夜食作ってたよ。とりあえず食べてきたら?」
「分かったよ!」
ヤケ気味に、部屋から出ていった加州を見送り布団に入る安定はぽつりと呟いた。
「主にも世話が焼けるなぁ」
厠に寄って、崩れた化粧に顔を歪めつつ食堂に向かうと調理場には明かりがついていて人のいる気配がした。
「燭台切さん、ごめ…」
「加州?」
そこに居たのは燭台切ではなく、本を読んでいた誉。加州は自分の姿を思い出し思わず顔を両手で覆ってしまった。指の間から見えたのは誉が蔑ろにしたあの栞が読みかけの本に挟めた所。
「それ…」
「ああ、これ?」
加州が食堂から出て行った後、手紙を他の刀剣に見られた誉は酷く責められたのだという。特に一期一振には弟達に悪影響な行動は控えろと釘を刺されたのだとか。
「悪かったよ。嫌な気持ちにさせて」
「そうやっていつも口だけじゃん!どうせ俺達のことも物以下にしか考えてないんでしょ!」
「お前達は神様だろ?」
その言葉に加州は固まる。真面目なのか本を閉じた誉は言葉を紡いだ。
「誰か一人でも折ってしまったら俺は神様を殺した罪人になるな、と何時も思ってる」
何を考えているか分からない自分の主。
それは今も変わってなくて。
それでもこの主を心の底から嫌いになることなんて、清光には出来なかった。
「ふふっ、何それ」
「笑うなよ。それよりこれ、食べてくれると嬉しいんだけど」
黄色いのに覆われて、赤いソースが掛かっているそれは歌仙や光忠が作っていたところは見た事がなかった。
初めて見るその料理に清光は唾を飲む。
「これなんて料理?」
「オムライス。お前だけにしか作ってないから内緒な」
そんな誉の小さい優しさに、狡すぎると思ってしまう清光なのであった。