短編集

□ぼやけた気持ち
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「君ってほんと、欲がないよね」

「いきなり何の話ですか?」

高校の制服を着ている在眞は椅子に腰掛けている雲雀にお茶の準備をしていた。
テーブルに肘をついて在眞の様子を眺めている雲雀は少し不機嫌そう。

「会った時からだいぶ変わったけど、それでも根本は何も変わってない」

「うーんと...変わった方がいいんでしょうか?」

出されたお茶をゆっくりと飲んでから雲雀は近くにある書類に目を通し始めた。

「無能」

「えー...」

それから1人になった在眞は白蘭に相談をする事にした。海外にいる白蘭とテレビ電話をしていると背後からやたら騒がしい声が聞こえた。

『ヒバリちゃんがそんな事をね...』

お菓子を食べる白蘭の後ろにはユニやγの姿が確認できる。
少し考えた白蘭は閃いたように在眞に言った。

『ヒバリちゃんに好きって言われたことある?』

「ないよ」

『最近触れられたのいつ?』

「中学の卒業式...トンファーで殴られるのは何度かあったかな...」

『はぁ...在眞、それは』

呆れる白蘭の後ろから画面に割り込んできたのは青髪のブルーベル。

『ばっかじゃないの!そんな事で白蘭に連絡して来ないでよね!』

「あ、うんと...ブルーベル?だっけ?」

うる覚えなそんな知識で返事をしてみるとブルーベルは余計に怒った。

『むっかー!なんで覚えてないのよ!』

『ほら、ブルーベル、野猿君と遊んでおいで』

怒るブルーベルを白蘭が優しく宥める。わいわいと賑やかな背後の音に在眞は目を細めた。

「お兄ちゃん、随分と楽しそうだね」

『寂しくなった?』

「少しだけ」

『それをヒバリちゃんに言ってみなよ』

「え」

『ヒバリちゃんだって在眞事、大好きだと思うよ 』

だから大丈夫。そう言って電話は終わった。



「君から誘うなんて珍しいこともあるんだね」

「高校卒業したら今のようにはいかないと思うので...でも良かったです来てくれて」

とりあえず雲雀を家に招いてみた。
財団のトップにいる雲雀は多忙にも関わらず拒否すること無く在眞の家に来た。
雲雀が好む和菓子と日本茶を用意すると、広めのソファに座っている雲雀の隣に腰を下ろした。
ちらりと横を見ると雲雀は疲れてるのか眠そうに大きなあくびをしている。

「君、本当にあれの下につくつもりなの?」

お茶を一口飲んだ後、雲雀が発したのはそんな言葉だった。
あれとは多分XANXUSの事なのだろう。

「君は頭も悪いし運動神経もいいとは言えない。殺しの才能なんてないよ」

「そう...ですかね」

そんなから返事にイラついた雲雀は在眞の髪を引っ張り鋭い目で睨みつけた。

「僕の下につけばいいって言ってるのに、なんで分からないかな」

明らかにイラついている雲雀。ぎりりと髪の毛を掴む手に力がこもる。在眞は痛さに苦笑いを浮かべた。

「強くなきゃ…見てくれないじゃないですか」

そんな言葉に髪を掴んでいた雲雀の手が緩んだ。するりと髪の毛が指の間を通り抜ける。

「呼ばれてわざわざ君の所に来てるんだけど、見てるとか見てないとか...君はいつも変に自己完結するよね」

「話してることがよくわからないんですけど」

「卒業式から曖昧な関係でここまで来たけど君から言わない様だからこの際はっきりさせよう」

嫌な予感がした。
はっきりとはつまりそういう事で。
在眞顔を伏せて目をぎゅっとつぶった。

「僕は多忙な中、好きでもない女の家に来たりはしないよ」

そういう事だから。
そういった雲雀は在眞が用意した羊羹を口へ運ぶ。
固まった在眞は顔を真っ赤にしてぽかんと口を開けている。

「暫く君の所に泊まる」

「え!?」

「寂しいんでしょ?」

その言葉にますます照れる在眞。
あまり見せたことのないその顔が雲雀はたまらなく面白いと思った。
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