短編集

□白蘭との出会い
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夕方の公園に金属が擦れる音が響いている。ブランコに乗っている双子の兄妹。片方は空を見上げながらブランコを漕いで、片方はそんな片割れを愛おしそうに見つめていた。
 日は傾き2人だけとなった公園に母親らしき人物が現れる。母親はブランコを漕いでいた方、志久眞にだけ話し掛けていた。在眞はそんな2人の数メートル後を俯きながらついて行く。
 母親は在眞をことごとく嫌悪していた。山に捨て、男に売り、暴力を繰り返していた。所謂ひとつの虐待である。兄である志久眞を溺愛していた母親の愛情は常にひとつの方向だけを向いていた。
 それでも、この世でかけがえのない双子の兄、志久眞が居てくれさえすればそれでよかった。
 居てくれさえすれば。
 
「手を貸しなさい」 
 
 信号が点滅し母親は珍しく在眞の手を引いた。久しぶりの母親の体温に驚きと少しの嬉しさがこみ上げてきたその時。
 手を強く引っ張られ在眞は車道へと出された。母親の笑顔がべっとりと落ちない絵の具のように在眞の脳裏にこびりついた。
 大きなトラックのクラクションの音が鼓膜を劈く。瞬間握られた手はよく知っている感触だった。

またね   

 口の形で分かったその言葉に目を見開く。志久眞は在眞の手を引き庇うように車道へと体を投げた。

「志久眞!私の志久眞がぁ!」
 
 聞こえてきたのは母親の悲鳴。
 在眞は言うことを聞かない体を精一杯動かし地面を這う。しかし手にあった違和感が在眞を絶望の底に突き落とした。
 
「志久眞...?」

 肘から先はない知った手の感触。ちぎれた腕から流れ出る血液と垣間見得る腕の骨。顔を起こすと見えたのは肉の塊だった。自分と似ている白い毛髪が赤く染まり肉の塊から見えている。

「志久眞っ...」

 声を上げて泣くことも志久眞だったものに這って行くこともできず在眞は気を失った。
 自分の身代わりとなった双子の消失は、在眞の心を深く傷つけた。その惨事をずっと影から眺めていた人物は泣きじゃくる母親に目もくれず在眞を抱き抱えた。

「ここまで君が言った通りになるなんてね。僕にとっては君の死は悪くなかったのかもしれないな」  

 肉塊に一言発した白蘭はそのまま在眞を病院へと連れていった。

 
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