短編集
□甘え 雲雀side
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萩原在眞が泣いている。
ヴァリアーの仕事で海外から帰ってきた萩原在眞はいつもより元気がなかった。元々疲れたとかだるいとかを口癖のように言っていた為、今回も特別気にとめていなかったが、用があり部屋の前に着くと啜り泣く声が聞こえてきたのだ。
少し戸惑ったが僕は軽くノックをしてから返事を待たず彼女の部屋に入った。
頭を壁に持たれかけて項垂れている。僕に泣いていることを悟られまいとしていてもても泣いている名残の音が耳にはしっかりと届いていた。
「泣いているのは仕事の事?」
背中を見つめそう問いかけるとふるふると顔を横に振る。萩原は1度こうなると面倒だという事を僕は知っていた。失踪されてはたまらないと出来るだけ苛立ちを抑え事情を聞くと予期していない答えが返ってきた。
「母親に、会いました」
目元を赤くする彼女は悔しそうに唇を噛んでいた。
話を聞くと偶然に声を掛けてきた母親は彼女に泣きじゃくりながら帰って来て欲しいと縋ったという。怒りよりも恐怖の感情が勝っていた彼女は母親を振り払い逃げてきたらしい。
そんな話を聞いて頭では考えていない言葉が僕の口から出た。
「なんで僕を呼ばなかったの」
きょとんとした彼女の顔。数秒経ってからハッとなり口元に手を当てた。
「雲雀さんに頼ることではないと思ったので...すみません」
「ねぇ」
萩原の自分の中に他人を踏み入れないこの態度は言って治るものでは無い。しかしムカつかずにはいられなかった。
「君は僕の所有物だって事、ちゃんと分かってるよね」
「はい」
「僕は君とこうゆう仲になってから咬み殺すのを極力我慢しているんだ。その努力を無駄にしないでよ」
恋人らしく、それに近づけるように努力している僕に君も合わせるべきだ。だって頼って可愛げがあるのが彼女ってものだろう?
「母親の事は、大丈夫です」
「僕がさっき言ったこと、聞いてた?」
「好きだから、私の嫌な所は見て欲しくないんです」
「君は可愛げの欠けらも無いね」
トゲのある言葉とは裏腹に彼女の頭を自分の肩に付けてやる。数秒の沈黙の後に在眞は雲雀の背中へと両手を回した。
「それをするってことは1人になりたいって訳じゃないんだろう?」
軽々と在眞を抱え、2人は雲雀の自室へ消えていった。