短編集

□嫉妬
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「うわぁ…」

在眞はヴァリアー幹部全員に配られた紙を見るなりめんどくさそうな顔になる。
その内容はボンゴレファミリー総出の懇親会のような内容だった。しかも9代目の炎印までしてあるそれには強制召集をにおわせる文面。

「ボスさん、行くんですか。これ」

真顔で見ていたXANXUSはどうするのだろうと待って数秒、答えは帰って来なかった。

「日本の慰安旅行、考えてた時だったし、いいわよね。顔くらい出しても」

「ゔおおおい!久々に腕がなるぜぇ!」

何故か凛々としている幹部達。何故こんなに嬉しそうなのかと疑問を持っていれば、幾分か成長したマーモンが在眞の裾を引っ張る。

「まだ全部は読めないのかい?全く無能もいいとこだよ」

「なんて書いてあるんですか?」

「エキシビションマッチも開催する。そう書いてあんだよ」

馴れ馴れしく肩に手を回すベル。その言葉の意味は『皆で集まって正々堂々戦いましょう』そういう意味だった。

「これよく沢田さんに通りましたね」

絶対やだと言う顔が頭に浮かぶ。そしてそれと同時に前回会った時に交わした言葉も頭に浮かんだ。

『雲雀さんと会えないの、寂しいよね。俺にもできる事あるかもしれないから、俺なりに頑張ってみるよ』

まさか。
確かにこんな日でもなければあまり会えない立場にいるのは明白だが。気にもしていなかったし、そもそも顔がいいあの人の事だから他に女が出来てもそれはそれでいいとすら思っていた。

「そんな嫌そうな顔すんなよ。あいつに会えるんだろ?」

「まぁ、でもこれは職務の範囲内ですから。優先するのはボスさんだし」

「つまんねぇ反応」

表情がでてきた在眞の根本はやはり淡白で。
大人になってからも大人数を嫌う在眞の性格はどことなく雲雀と似通っていた。





一方その頃日本では。

「ヴァリアーの皆さんも参加なさるようで」

「そう」

こんな形で半年ぶりに恋人に会うこととなった雲雀は思いの外普段と変わらなかった。
戦うことは内心嬉しいが群れることは好まない。在眞と同じように雲雀も面倒だと感じていたのだった。








「これで役者は揃ったな」

張り切るリボーン。大人びたボンゴレの守護者達に混じって京子やハル、ミルフィオーレやシモンファミリーの面々も集まっているようだった。

「よく集まってくれました。今日は楽しんで行ってください」

形式的な挨拶をすませる沢田綱吉。
城のような屋敷からは広い庭と庭園が見える。
各々スーツやドレスに身を包んでいるが在眞はいつも通りのヴァリアー支給のスーツ。

「なんでお前はそれなんだよ」

いつもとは違うカジュアルなタキシードのベル。ヴァリアーの幹部もそれぞれ自分の好みのスーツを着ているようだ。

「俺と同じだな」

愛隊心からか同じ種類のスーツを身につけているレヴィに目配せされぺこりと頭を下げると気持ち悪いと言わんばかりにベルとマーモンは引いていた。

「気持ち悪いからやめなよ。それ」

「皆さんみたいに強くないから下っ端なりに誠意をですね…」

「在眞…!」

声をかけてきたのはクローム。だいぶ伸びた髪の毛で大人っぽく見えている。そしてその態度も昔とは随分と変わっていた。

「久しぶり。元気してた?」

こくこくと頷くその仕草は在眞との再会が嬉しそうだ。

「どれくらいやれるようになったか知らないけど僕は君がボンゴレの術士だなんて認めていない」

「では誰が1番の術師か。今ここで決めましょうか?」

にこりとクロームとそっくりの髪型で出てきたのは骸。ムッとした顔のマーモンを他所に在眞向けて口を開く。

「雲雀恭弥に会いに行かなくてもいいのですか?」

忘れていた訳ではなかったがちらりと視線をずらしてみれば群れている在眞に殺気を向けていた。

「す、少し外に出てきます」

溜息混じりに携帯を確認する。見るとそこには10件以上の着信が来ていた。
はぁと深い息を吐いてから真面目な顔になった在眞は電話の主へと言葉を切り返した。

「何の用?」

消えた在眞を探していた雲雀は庭園で在眞を見つけた。
どこからか来た猫を膝の上に乗せ撫でている在眞は物憂げな顔をしている。

「やあ」

「お久しぶりです」

「顔色、良くないよ」

あははと笑うその顔はどこか力が抜けていて。

「珍しいですね。雲雀さんが参加するなんて」

「戦えるって聞いたからね」

かっこいい服を着ているのに話すことはいつもと同じ。
そんな雲雀になんだか安心して先程の電話の内容もそんなに憂鬱には感じなくなった。

「どこに行くの?」

「私はこういう場所、苦手ですから」

ヴァリアーの範疇にない仕事。それの片を付けるために在眞は歩き出す。てっきり少しの間抜けるだけだと思っていた雲雀。見当たらなくなった在眞を探していると沢田から体調不良の退席を説明されムカつきが爆発していた。

「次の相手は誰?」

フィールドに引きずり出してはかみ殺し奴当たられている獄寺や山本、ベルにレヴィは相当参っていた。



「用って何?」

私服で向かった先はチェッカーフェイスの元だった。在眞にしか頼めない仕事。着信の多さに在眞の機嫌は良くない。

「また、頭のいい子が欲しいと言われていてね」

頭のいい子。それは動物の事だ。リボーンのレオン然り、マーモンのファンタズマ然り。時たまずば抜けて頭のいい動物が欲しいと、川平が仲介となって時たま在眞の元に依頼が来るのだ。

「分かった。時間かかるかもしれないけど日本にいる間には見つけるよ」

芳しくない顔色。川平は在眞の体調の悪さを見抜いていた。

「取り敢えず食事をきちんと取りなさい。時間はまだある」

「奢りね」

よっぽどお腹が空いていたのだろう。川平の隣を歩く在眞は言葉少なに愚痴などを零していた。
そして対面から来た2つの影にその言葉は止まる。

「おや、これはまた」

歩いてきたのは雲雀だった。そしてその隣には綺麗な女の人が楽しそうに笑っている。
川平はちらりと在眞を見たが特に何も反応はないようで。
雲雀は在眞の存在に気づくと一緒にいた女性との会話を少し途切れさせたようだった。

「お知り合いですか?」

「ああ、少し」

在眞は軽く会釈をして、雲雀は何も言わずにすれ違う。

「あれ、いいのかい?」

「何が?」

「君の恋人だろう。ほかの女を連れてる所、見て気持ちのいいものじゃあるまい」

「今は依頼の方が大切」

信じている、とかそういうのじゃない。
人望も権力もある雲雀はそれだけで女性から好かれることは明白で。
年上で尚且つ会う機会も少ない雲雀の内情に在眞は絶対に立ち入ったりしなかった。

「依頼人に惚れた訳では無いよね?」

「どうだろうね」

「あれを追いかけるのはやめなさい。いいものじゃない」

「分かってる。この関係以外、持つ気無いから」

それから食事をして過去のことを話してから在眞は1人で森に入った。
以外にも早く半日で在眞は大きな亀を連れて森から出てきた。

「待ってたよ。急な依頼を頼んでしまったようですまなかったね」

「大丈夫です。貴方の頼みですから」

川平の家で待っていた依頼人。
在眞を介して会話を始める亀とその人。
話は纏まったようですぐに2人は帰る準備を始めた。

「随分無理をしているね」

「そんなことないです」

「…キミは、大丈夫」

「いつもありがとうございます」

頭を撫でるその人は志久眞に似ている。
かつてその人は死んだ志久眞に合わせてくれた。在眞が仕事で上手くいかず、母親と対峙し、父親に縋られ精神的に追い詰められていた時のことだ。
夢の中、とはいえ、確実にそれは志久眞そのもので。
恩以上だった。この人が大丈夫と言ってくれる時は本当に大丈夫で。少し顔を歪ませた時は助言をくれる。




夜中、ふらふらと雲雀の基地の玄関を開ける。その音に気づいたのか浴衣を着た雲雀がの在眞前に現れた。

「雲雀さん…」

「2人」

「え?」

「日本に来てから君に触れた男の人数」

「!?」

「正確には、3人?」

平川とあの人と、そして亀。何で判別しているのか、どこの野生だと突っ込まずには居られない。

「怒らないとでも思ったの?」

「いえ、そんなことは」

「君は嫉妬、しないから言うけど。僕は君に他の男の匂いがつくのを許した覚えはない」

「やましい事は何もしてません」

「そう」

雲雀はそう言うと在眞を自分の懐に入れ、肩に歯を突き立てた。

「っ!」

噛みちぎる少し手前。血がぼたぼたと垂れ畳を汚していく。

「これをしても君は何も言わない。他の男にはぺらぺらと話しているのに」

「嫌、なんですか…」

「流石に他の男の依頼の方が大切、なんて口にされてはね」

「聞いてたんですね」

「君、僕に隠れて何かよからぬ事をしているんじゃないの?」

「…」

「ちょっと聞いて…」

「すぅ…」

「僕の知らない傷が、またこんなに出来てる」

自分自身すら守れない恋人。ため息をつきながら布団に寝かせ草壁に自分の噛み跡を手当させる雲雀なのであった。











「こんにちは。先日はご馳走様でした」

「別に構わないよ」

「こちら、先日話していた品です」

「うん」

内容は取引そのものだった。
大量の雲のリングを持ってきたその女性はお金を受け取るとすぐさま帰り支度を始めた。

「食事をご馳走になって言うのもなんですが、貴方の恋人にはああいうのは効果ないと思いますよ」

「何の話だい?」

「あら、違ったんですか?貴方が私を誘うなんて初めてだったものですから」

「どうでもいいよ。用が終わったならさっさと帰ってくれるかな」

「はい。ではまた」
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