人狼1夜目【企画】
□小説「西条雪乃の独白」
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たとひうるならば、それは彼女の概念への恋心であったり、愛情であった。
彼女は盲目であった。何も盲目と言っても、事実目が見えないということはない、恋は盲目という言い回しがそれに近いのだろうか。
人というものに恋をしていた。文化的である人というものを愛していた。
それが故に、西条雪乃という人はことさら文化的にあるべきだと思う。文化的でない人など獣であるとすら感じる彼女には自らが野蛮であることを認められない。
人狼ゲームという人を疑い疑われ、殺し合うというものに巻き込まれた時はなんとも人間的な、蹴落としあいの場なのだろうと思った。
また、なんとも文化的でなく、非生産的なものなのだろうとも思った。だから、他に集められた人に判断を委ねる事にしたのだ。
自身は嘘をつかず、誠実に発言をして、あとは周りに委ねよう。
そうして、生きたい、死にたいという矛盾した感情を片方をさらけ出すことでもう一方を誤魔化し、自身を隠した。
『投票の結果あなたは処刑されました』
その、人が死ぬというのに妙に淡々とした業務連絡が来た時、彼女ははひどく驚き、ひどく甘美に打ち震えた。
「占い師なんてものになっておいて、村を見捨てる選択をするなんて…うん、紅月ちゃんごめんねぇ…私の自殺行為とも言える事に盛大に巻き込んじゃって…」
これは彼女のエゴである。
彼女を殺すに至られた人には多少の罪悪感というものが芽生えたであろう。しかし、彼女からすれば自身に投票した人に心動かされる事はすれど、恨むことはない。
まだ、最初の誰が手を下したかすら分からない死体を考えなければ、彼女の手はまだ汚れてはいなかった。
ならば、どうせ死ぬならば生を噛み締めて死のうと思い至った。自身の生きていた痕跡を残していこうと思った。
痛みは生きている者の物である。
死んだら痛いのか、痛くないのか、そもそも死んだあとにどうなるかなど知らない。
もしも痛みを死んだ先失うのであれば、あまり好めるものでもない痛み、というものを体に記憶していこうとした。
死に場所は、自分の通っていた学級の教室にしようと決めた。この校舎の中では一番思い出のある場所だから。
死に方は、自刃にした。銃殺では痛みは一瞬だ、人生でただ一度しかない死ぬ痛みというのをそれで終わらせるのは味気なかったから。
「紅月ちゃんと…居たかも分からない私を信頼してくれていた人、私のエゴに巻き込んで疑われたらごめんねぇ…うんうん、本当に身勝手だったなぁ私…」
腹を刃で貫いた。
彼女に焼けるような痛みが体を襲ったが、不思議と恐怖はなかった。痛みというものに愛おしさすら覚える。
最後に、息も絶え絶えで紡いだ言葉は文章となることもなく空気に溶けて消えた。
「……それ…でも、わた……は誠じ……だっ…」
次の日発見された彼女の遺体は、悲惨な死に方とは裏腹に笑顔を浮かべていた。