夢追い人【進撃】

□4話
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「……あ、好みっていえばさ、異性の好み! 」
「異性の?」

ちょうど昨日の夜、女子宿舎はそういう話で盛り上がってたのを思い出す。
まあ盛り上がったといっても一部の人だけだったけれど。

「男子の方ではそういう話しない? 」

「結構してると思うよ。話に加わったことはないけど」

「えー……」

つまんないの。
って気持ちを表情に目一杯出したけれどマルコは全然気にせずに「そんなに不満? 」と言うだけだった。


「そりゃ不満だよー。昨日は男子の方の好みはどんなのかって話も出てたんだからね」

どっちかっていうと多分、“好きなあの人の好み”みたいなノリだったけど。敢えて言わない。
言いにくいでしょ。

「……じゃあマルコの好みでいいや」

「いいやって、他に言い方あるだろ」

呆れられたけれど、実はこれが本命なのも絶対に言わない。聞かれても絶対に言えない。

「なんでもいいんだよ?ジャンみたいにとても綺麗な黒髪が好きーとか」


茶化した言い方でいう私を呆れ顔のまま見つめていたマルコは真面目な顔になって「黒髪か……」と、呟いたと思ったら


「確かに、嫌いではないかな」


「!」
なんてちょっと視線を逸らして肯定するから、私はびっくりして椅子の上に飛び乗った。

逸らした先には何もないけど、マルコは何かを見ているようだったのでもしや、

「そんな大袈裟に驚かなくたっていいじゃないか」

「え、あ、うん、うん。
……もしかしてなんだけどさ」

「うん?」

好きな人いたりする?

その言葉は口から出なかった。
だって、あれは絶対にいるって視線だったから。聞いたら私がショックを受けるかもしれない。

「やっぱいいや! 」

その子って訓練兵団にいる子?
その子の為に憲兵団を目指しているの?
その子のマルコはどんな関係なの?

うやむやにした質問だけが頭を回ってしまうけど、私にとってはこれでいい。


そのタイミングでちょうど、夕食の鐘が鳴り始めた。

「うそ!?もうそんな時間!? 」
「ほんとだ。はやく戻らないと教官にどやされそうだね。行こう!」

慌ただしく本をしまって、書庫を飛び出す。もし、夕食抜きにでもなったらサシャじゃなくても普通に堪える。
私の全力疾走なんかより先を走っていたマルコが、わざわざ速度を緩めて私の横を走ってくれる。


……偶然だけど、これであの微妙なわだかまりは忘れてもらえるだろう。




“星が綺麗ですね”
私は、あの主人公のようにはなりたくないけどな。
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