長編小説 Meer

□Meer2話 動き
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〜2015年2月1日 ソウル郊外〜



「ヒョン!」



この家に住む末っ子のチャンは、期末テストを終えて早く帰ってきていた2つ上のヒョン達、スングァンとハンソルに飛びついた。

sg「うわぁ!!今、いいとこだったのに!」

チャンが飛びついたことによって、誤ってラストステージだったゲームの電源を切ってしまい、抗議の声を上げる。



hs「あーあ、残念。」

口ではそう言いながらも、あまり気にしていない様子のハンソルは、スングァンに怒られてシュンとしているチャンに、何があったの?と声をかけた。

よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに、目を輝かせたチャンは、この間の全国模試で、数学が満点だったの!と、自慢げに成績表を広げた。


チャンはとても頭がいい。少なくともこの家の中では一番頭がいいだろう。
音楽以外で、いい点数を取ったことがないスングァンは、にこにこと笑うチャンを恨めしそうに睨んだ。








「ただいまー」

3人でわちゃわちゃしていると、玄関を開ける音が聞こえた。



ch「ソクミニヒョンだ!!」


チャンは顔を上げると、玄関の方に走っていった。




sm「はい、これお弁当。」


ソクミンはアルバイト先で安く買ってきた弁当を3人分、チャンに渡した。




hs「あれ?ヒョンたちのは?」


あとからやってきたハンソルが玄関に顔をのぞかせながら首をかしげた。



sm「今日は出かけてくるから。先に寝ててね。」


ハンソルは、ソクミンの目を見ながらうなずいた。






”先に寝ててね”





ヒョンがそういう日は、絶対に夜更かしをしてはいけない。例え、明日が休日だとしても。




sm「じゃあ、いってきます」


ソクミンは出かけるときに必ず持って行く小さな鞄を手にすると、颯爽と出かけていった。








ch「…行っちゃったね。」



結局見せることができなかったテストの成績表を握りしめ、チャンがぽつりとつぶやいた。
100点、と書かれた文字がぐにゃりと歪むのが見えた。


sg「…今日は早く寝ないとね。」








僕たちは何も知らない。何も知らないふりをしなくてはいけない。





きっと真夜中に、血まみれの遺体をつれて帰って来るであろうヒョン達のことを知っていたとしても。




〜2015年1月31日 ソウル中心部〜



「まだかよ。」

「あとちょっとだから。」


ソウル中心街、といっても深夜の裏路地には人ひとりいない。
そんな中、普段はあまり着ない暗めのパーカーに身を包んだスニョンは、隣で金庫の鍵を開けようと針金を動かしているジュンに声をかけた。ジュンは、動かす手を休めずに答えた。





ガチャ


「あいたよ」

ジュンがそう言うと、スニョンは舐めていた飴をかみ砕き、金庫の中をのぞいた。




金庫の中には一枚の紙が入っていた。



「これかな?」


スニョンが手にした紙を、ジュンも横からのぞき込んだ。




「英語だから、わかんない」

ジュンは、自分には全く理解できない紙を、ポケットに入れていた携帯で写真を撮り、送信先を確認すると、迷わず送信した。



「たぶん、これで間違えないから。」

「じゃあ、元に戻さないと」


2つ目の飴を口に突っ込むと、スニョンは再び壁に背を預けて座った。

なぜ、こいつはついてきたのか。金庫を開けて、資料の写真を撮るだけならば自分ひとりで十分だったのに、ジュンはそう思いながら飴玉を口の中で転がすスニョンを軽く睨んだ。


その視線に気づいたスニョンは、また1つ飴玉を出した。


「そんなに睨むなよ。おまえが、寂しいかと思ってついてきたのにさ。」



はい、糖分摂取、とか言いながら、スニョンは飴玉をジュンの口に放り込んだ。









〜2015年2月1日 ソウル中心部〜





「今夜だと思いますよ。」


ジフンはパソコンの画面から目をそらさずに答えた。




「…今夜か。。」




ジフンが手に入れたのは、臓器売買が行われている闇市が開催される日程だった。

臓器を売却するのであれば、今夜あたり殺しを行うであろう、そう推測したのである。



「いま、ウォヌが見張ってるんでしょ?」

コップの中の氷が、少し溶けてカランと音を立てる。







ジフンは、パソコンから目を離した。

「おそらく今日は3人だと思いますよ。」

「3人?」


ジフンは机の上に置いてあった写真を掲げた。

「キムミンギュとソミンハオ。普段はこの二人が多いんですが、対象が1人じゃないときにはイソクミン、彼も現れます。」


「今日は、対象が1人じゃないの?」



氷が溶けて味が薄くなったココアをマドラーでくるくる混ぜながら首をかしげた。

ジフンは、そんな彼を見ながら確信を持った目で頷いた。


「一昨日の夜、江南郊外のビルで爆破事件があったの覚えていますか?あそこのビルは、裏の組織の拠点の1つだったんです。表社会には公表できないようなことが行われていたんです。」



ジフンはモニターに、一昨日のニュースを映し出した。




「こんな大きなビルで爆破があったのに、怪我人がいない、ておかしくないですか?」





――きっと表には出せない人間が大勢、怪我を負った。それを治療するのは、いわゆる闇医者なんです。闇医者が移植に必要な臓器を手に入れる方法は、闇市しかないでしょ?――






あくまでこれはジフンの推測でしかないが、おそらくその通りであった。
臓器の需要があるのであれば、殺しをひとりで終わらせるわけがない。そう思っていた。









「じゃあ、今夜がチャンスじゃん。ウォヌひとりで十分だよね?」





ジフンは、ソファーに深く座る彼を見た。


「ウォヌに伝えておきます。ジョンハニヒョン。」
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