記念日小説

□暗闇の華星
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〜暗闇の華星〜




「今日はね、北斗七星が綺麗に見えてるよ。」









私と彼は、公園のブランコに並んで座っていた。


彼は、いつから私の横にいるようになったのだろう。

目の見えない私に、学校で声を掛けてくれる友だちはいなかった。
誰とも関わらない時間を過ごし、夕方遅く、下校途中で立ち寄る公園で、彼は私に声を掛けるようになった。


彼は、私に星の話をしてくれた。
目の見えない私にも星の美しさが分かるように、いろんな言葉で表現してくれた。

毎日毎日、彼は星座にまつわる神話や、星の輝き方。。
私が知らない、見たことのない世界を私に教えてくれた。


彼は名前を教えてくれなかった。

だから私は彼を『ホシ君』と呼んだ。
その名前を気に入ったようで、彼もその呼び方を受け入れてくれた。


ホシ君は、星以外の話をしなかった。
それは、ホシ君と話すこと以外楽しみがない私にとっては有り難かった。
毎日の嫌な思いも、ホシ君といる時は忘れることができた。




「ねぇ、今日は6月15日でしょ?なんか、今日にまつわるお話とかある?」






私は、今日は神話を聞きたい気分だった。
ホシ君にリクエストすると、ホシ君は少し迷ってから、じゃあ、今の12星座の話をしてあげる。と言った。







「今は、双子座なんだ。双子座、って双子だと思うでしょ?でも本当は、双子じゃなくて父親の違う兄弟なんだよ。」




ホシ君は、話し方も上手くて、興味を引きつけるのが上手だった。今日もわくわくして、ホシ君の話に耳を傾けた。




「兄のカストルは、人間の子どもなんだ。でも、弟のポルックスは、神の子で不死身の体を持っていたんだ。この兄弟は、とっても仲が良かったんだけど、ある女の子に恋をしちゃうんだ。ふたりは、この女の子を拉致して奥さんにしてしまった。そしたら、その女の子の兄弟が怒って、双子に戦いを挑んできた。その戦いで、不死身のポルックスは死ななかったけど、兄のカストルは人間だから死んじゃったんだ。」





思っていたより、悲しい話に私は俯いた。





「それでどうしたと思う?」


ホシ君は私に問うてきた。



私が首を横に振ると、ホシ君は話を続けた。




「ポルックスはね、永遠に兄のカストルの横にいたい。それが願いだったんだ。だから、自分の不死身の体をカストルに与えた。そして兄弟は星になって、永遠に一緒にいられるようになったんだ。」




話し終わると、沈黙が流れた。




「…あんまり良くなかった?」





いつもは、話を聞くと、感想を言ったり質問をしたりする私が黙っているのに不安になったのか、心配そうに聞いてきた。







「…星になってまで永遠に一緒にいたい、て思えるなんてすごいね。」




素直な感想だった。母親とふたり暮らしの私にとって、兄弟の絆というものは分からなかったが、単純にすごいと思った。









「君はさ、永遠に一緒にいたい、と思える人、いる?」


私はホシ君の言葉に頭を上げた。初めてだった。ホシ君が星以外の話をしたのは。




私は首を横に振った。











「僕はね、いるよ。」








・・・こんなにいい人だもん。ホシ君には、永遠に一緒にいたいと思えるくらい大切な人がいるはず。
私はそう思っていた。




「・・・生き別れたお姉ちゃん。」





意外だった。


ホシ君、お姉ちゃんいたんだ。ホシ君が自分のことを話すのは初めてで、新鮮だった。







「生き別れたの…?」


うん。小さく呟く声がした。


「ていっても、僕が0歳で、お姉ちゃんが1歳の時だからどっちも顔とか覚えてないんだけどね。」

小さい声でぽつりと呟いた。いつもの明るいホシ君の新たな一面を感じた。





「だから、僕は、毎日流れ星に、お姉ちゃんと再会できますように!てお願いしてるの!」

ホシ君が、しんみりした空気をかき消すようにいつものトーンで声を上げた。



顔も見たことがないけど、にこにこしているホシ君が想像できて、私も笑顔を浮かべた。


「じゃあ、私もホシ君がお姉ちゃんと再会できることを一緒にお願いする。」


私は、目には見えないが夜空を見上げて呟いた。




















「ありがと。」




ホシ君の声がして、私は、どういたしましてと微笑んだ。









その時、ホシ君が切なそうな目で私を見ていたことは私は知ることはなかった。
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