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□狛枝くんと朝
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○名前変換なし

○ただの狛枝









朝、目が覚めると鼻にふわっと懐かしいにおいが触れた。
なんだろう、小学生の頃を思い出すにおいだ。
このにおいを嗅ぐと、なんとなく起きなきゃいけないような気分になる。
私はまだ眠くて閉じたままの目をこすり、大きなあくびを一つ。
それからはた、と気づいた。
これは朝御飯のにおいだ。
だけど私は独り暮らし(寮だけど)で作る人なんかどこにもいないのだ。
いや、そもそもキッチンなんて、ここで生活しはじめてから一度も触っていない。
とんでもなく悲惨なことになっているキッチンを見せるわけにはいかない。
慌ててベッドから跳び降り、キッチンのある部屋のドアを勢いよく開けた。






そしたら。






「あ、おはよう。ご飯もうすぐできるよ」




狛枝くんがいた。
私は部屋から出て表札を確認し、もう一度居間に戻ってくる。




「え、なんでいるの。ここ私の部屋じゃ…」



すると狛枝くんは鈴のついた銀色の鍵をニコニコしながら取り出した。
一瞬、それが何かわからなかったが、すぐに気付いた。




「わ、私の部屋の鍵!?な…え、ええ!?」




顔面蒼白でうろたえる私をよそに、狛枝くんはせっせとトーストにバターを広げる。






「実は昨日さ、たまたま君の部屋の前で見つけて拾ってさ」






私は狛枝くんがテーブルに置いた鍵を素早く奪い取ると、それを今度こそ大事にしまった。





「でもなんで朝御飯なんて…」





テーブルの上にのっているのは、レタスやトマトを大量に使ったサラダ、
いい具合にトロトロのスクランブルエッグ。
コーンスープは私が非常用にしまっておいたインスタントのものだろう。
だけどどれもおしゃれに盛り付けてあって、とても男子高校生が作ったようには見えない。
しかも彼の後ろにあるキッチンはまるで今まで丁寧に掃除されてきたかのような輝きを放っていた。





「昨日君を不快にさせてしまったお詫び」





不快。
彼は私に何かしただろうか。
足りない頭で懸命に考えるが、どうにも思い出せない。
すると、冷蔵庫からジャムを取り出した狛枝くんがスッと目を細めた。




「あ、はは、そうだよね。所詮僕が起こした行動なんだ。ごみくずが何したって記憶に残るわけないよね」





「ストップ!待って!今思い出すから!」





額に手をあてて、そこでようやく思い出した。





「…もしかして、昨日私が転んだことを言ってるの?」





昨日、狛枝くんと未来機関の所有地である畑に水まきに行った。
だけどその途中、突然の雷雨に襲われ、雨宿りした場所で野犬に出会い、逃げてる最中に私は思いっきり転んで額を怪我した。
まぁかすった程度だから全然平気なんだけど。
で、そのあと……そのあと。





…かぁぁっと、自分でもわかるくらい顔が熱くなる。
そうだ、あのあと狛枝くんが無理矢理…。





「キスしちゃった」





「うわぁぁぁぁ!!」





声に出して言われて、恥ずかしさのあまり床に崩れ落ちる。
お尻が痛いと感じるのはまだちゃんと意識がある証拠だ。





「ほんとに申し訳ないよ。ボクの不運であんなことやこんなことに…」





「き、ききき、きす…っていうのは好きな人とするもんだよ…?」




自分がキスされた、という事実よりも、狛枝くんのファーストキスを頂いてしまった、
ということの方がかなり重大な気がして、そう口にする。
狛枝くんはしばらく無言で目をしぱしぱ瞬いた後、少しだけ嬉しそうにに首を傾げた。




「だったらボクは問題なかったね」




「は」





「ねぇ、君はボクが嫌い?嫌いだったら今すぐこのナイフで刺し殺していいよ!」




彼の手の中で果物ナイフが弄ばれる。
狛枝くんの笑顔は凶器的だ。
私はしばらくナイフの輝きを見つめた後、彼のナイフを手にとって流し台に放った。





「むしろ私が刺し殺されたいくらい好きだよ」








Tankyou for clap!!









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