枯れた林檎と寂しい海月

□画面の向こうは南国日和
1ページ/1ページ











「やったぁ!ねぇ見て見てさよちゃん、ついたよ、画面ついた!」




「見ればわかるべ」




希望更生プログラムの中に彼らを入れて、江ノ島という存在を抹消する。
それが今回の私たちの任務だった。
…なんてかっこよく言うもんじゃない。
実を言うとこれは苗木くんが勝手に始めたことだ。
それも未来機関のお偉いさん方の許可も得ずに。
だけど私は上の人たちの意見には反対だ。
だって、上の人たちは希望を生かせ、絶望を殺せ。
そんな風にいっているように聞こえる。
対して苗木くんは、希望を生かし、絶望を更生させる。
そんなこと言われたらこっちにつくしかないよ。
さっき貰ったお茶を飲んで、画面に目を戻す。


…あ、海。
画面の向こうにはどこまでも続く真っ青な空と、限りなく透明に近い海が広がっていた。
真っ白な砂浜は画面越しでも目が痛くなる。
画面の中で、生徒たちに紛れてどこかで見たことのある少年が一人。





「あは、十神くん。いつプログラムの中に行っちゃったの」






「黙れ。消し炭にされたいか」








ぷい、とそっぽを向く。
大丈夫、知ってるって。
クスクスと笑っていると、不意に苗木くんがこっちを振り返った。








「綾樫さんは行かなくてよかったの?」








うん、行きたかったよ、死ぬほど。
そう言うのをぐっとこらえて、笑顔のまま苗木くんの頭をポフポフと撫でた。









「帰りを待ってる私が参加してどうするの」







「そ、そうだよね!あ、ははは」








と、苗木くんが気まずそうに笑った、そのときだ。









「……雨?苗木くん、そんな設定入れたかしら」








「あれ、バグかなぁ」









突然、楽しそうに遊んでいる皆の頭上に灰色の雲が現れる。
おかしいなぁ、と苗木くんがパソコンをカチャカチャといじるが、雨はやまない。
どんよりとした曇り空が私たちを嘲るように笑う。







そこで、画面が切り替わる。







『やぁやぁ、未来機関のみなさま』








ぎょっとした。
画面が真っ暗になったかと思うと、国民的なアニメの声が室内に響く。
同時に部屋中に緊張が走る。








「モノクマだと…!?なぜだ、江ノ島は死んだはずじゃ…」









『うぷぷ、これだから頭とフレームの硬い眼鏡はダメだよね』









葵ちゃんが私のスーツの袖を少しだけ掴んだ。
私も、同じ。
怖い。
体が震えるのを手を握りしめて我慢する。








『おやおやぁ〜?向こうのモブキャラは始めましてかなぁ』







「も、モブ…!?」










モノクマのつぶらな目が私の姿を捉える。
ただのぬいぐるみ、かと思いきや、目が合うと心が恐怖と不安で一杯になる。










『…まぁいいや。モブキャラに割く時間なんてないしね〜。うぷ、うぷぷぷぷぷ』









「ほ、ほんとになんなんだ!なんでここに…!!」








するとモノクマはなに言ってんの、と可愛らしく首を傾げた。
…嫌な汗が背筋を撫でる。









『僕がいるとこにコロシアイあり、でしょ?』










「は…」












呼吸と目の前が固まる。
こいつは何を言っているんだ。
そいつの言っていることがうまく飲み込めなくて思考が停止。
できればそのまま、止まったままでいたかった。











『気になる?うんうん、気になるよねぇ〜。そこで朗報!』









くるりん。
画面の中でモノクマが一回転する。
誰の趣味か、キラキラまでついている。












『なーんと、未来機関のみなさまには特別に、コロシアイを中継しちゃいたいと思いまーす!!』












「そ、そんな…や、ややややめるべ!ああああ悪夢があああ!!」










『あ、折角だし邪魔はしないでね。ショータイムなんだからね。うぷぷ、うぷぷぷぷぷぷ!』










ぶつん。
通信が途絶え、再び静寂が戻ってくる。
まるでなにもなかったかのような静けさに悪寒を覚える。
くる、と回りを見渡すけど、もうモノクマなんて何処にも写ってなくて。
代わりに清々しいほどの晴天が画面に写し出されていた。











「…なにをボサッとしている!さっさとプログラムを元に戻すぞ!!」









十神くんがそう叫ぶと、ようやく意識がはっきりとしてきた。
うん、視界もクリアになってきた。
私は急いで自分の席につくと、プログラムの復元と修正を開始した。
























[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ