短編

□本日のお食事
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※カニバリズムあり

※狛枝くんは通常運転






「う、おぇぇ、ぇ、げほっ」


口元に押し付けられたそれがただただ恐ろしくって吐き気を催す。
だけど、空っぽの胃の中からは何も出てこず、嫌な汗をだらだらとたらす。
そんな私を見て、フォークを突き出し、いつも通り笑っているのは狛枝凪斗である。
薄暗い部屋で男女が二人きり、というと、"そういうこと"を想像するだろうが、そんなことはない。


「駄目だよ、ほら、あーん」


「いや、やだ…んんっ!」


このやり取りも何回目だろう。
もう数えることすら止めてしまった。
狛枝くんは不服そうにフォークを皿にのせ、私に向き直る。


「あのねさよ、今食料なんてほとんどない時代だよ。ちゃんと食べないと力がつかないでしょ?」


真剣な眼差しでそう言う。
だけど、私は知っている。
その瞳の中でドロドロの絶望が蠢いていることを。


「ねぇ、なんのためにさ」


狛枝くんが立ち上がり、私の喉を締め付ける。
細い腕だと思ったこともあったが、やっぱり彼は男子で、力もそれなりにある。
魚のように口をパクパクさせ、目をひんむく。
苦しい。苦しい。


「なんのためにボクが腕を落としたと思ってるの」


ぼやけた視界の隅に、血まみれのパーカーがうつる。
狛枝くんの左腕。
それは、今テーブルの上のお皿に乗って……。


「あ…かはっ!」


息ができるギリギリのところまで手を緩められて、
中に肉が押し込められる。


「噛んで」


笑顔のままそう言った。
言われるがまま苦しみの中で、それを咀嚼する。
にちゃにちゃと唾液と狛枝くんのそれが混じりあう。
調理されてはいるけど、やっぱり鉄臭い。


「ん…」


手を放されたと思ったら、口の中にペットボトルが突っ込まれる。
もちろん、持っているのは狛枝くんだ。


「飲んで」


手を震わせたままペットボトルに手を添え、ゆっくりと口の中のものを飲み干す。
私の喉が動いたのを確認すると、彼は満足そうにヨダレをたらし、笑った。


「よくできました」


あぁ、食べちゃった。
狛枝くんを、食べちゃった。
生理的なものか、感情的なものか、ボタボタと大粒の涙がこぼれる。
狛枝くんは私の涙を舌で舐め、艶やかな笑みを浮かべた。




















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