短編
□儚く脆い生き物
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私もあなたも、知らないうちに消えていく。
「人間って、すっごく弱くてちっぽけで儚くて脆いと思ったことない?」
「急になんスか」
今さっきまで私を夢中にさせていた本をベッドのふちに放り投げ、椅子に座っている天海くんの背後に立つ。
天海くんは背が高いから、こうして私が彼を見下す、というのはなかなか無い。
身長、身長が欲しい。
天海くんは黒縁眼鏡を外すと、きょとんとした丸い目で私を見上げた。
「俺としては人間って強くてかなり発達した生き物だと」
「生物学的なことじゃなくて!!」
彼の両頬をガシッと半ば乱暴に掴み、翡翠の瞳をジィッと睨み付ける。
その目は電気だか、カーテンから漏れた柔らかな太陽光だかでうっすらと濡れていた。
天海くんは少し考えたあと、顔を無理矢理私に近づけ、触れるだけのキスをした。
「つまりいつ死んでもおかしくなくて、それでいてストレスにも弱い人間って弱いって言いたいんスか」
「半分正解、かも?」
「なんスか、それ」
天海くんのくれるキスは甘い。
それでもって優しい。
だから私はいつもこのキスを最後に永遠に会えなくなるんじゃないかと思う。
思わせられるのだ。
「ん」
だらりと垂れ下がった髪を耳にかけて、唇を少し尖らせると、天海くんはもう一回私にキスをした。