短編

□xxは夕焼けで溶けて形になって。
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○同性愛を匂わせる描写があります。













「転子ちゃん、私たちはいつこの檻から出れるんだろうね」





彼女はときどき、寂しそうにそう言った。
その言葉の意味がよくわからなくて、転子は首をかしげる。






「綾樫さんは希望ヶ峰学園が嫌いなのですか?」







どうだろうねーー。

会話はいつもここで途切れてしまう。
転子は彼女のそばにいるのが好きだ。
もちろん夢野さんにくっついていくのも好きなのだけど、綾樫さんと夢野さんといるのとでは
何かが違う。
こう、なんというか、予想できないドキドキ感…あぁ、違う。
違うんだけど、そんな感じ。



彼女はなにもしゃべらず、黙々と布を縫い付けて、形にしていく。
話によれば、知り合いに赤ちゃんが生まれるらしくて、その子の為にぬいぐるみを作る、と。
いいな、羨ましい。
眼鏡をかけて真剣に取り組む彼女の顔は、いつもと違って…そう、美しい、と言うか。
なんというか。






「ばぁ」






「う、ぇぇぇ!?な、なん、な、なななななんですかぁ!?」





驚きすぎだよ、と笑う彼女の手の中には、丁度そのなかに収まりきるくらいのぬいぐるみがあった。
目が丸っこくて可愛らしいぬいぐるみ。
…たぶん彼女は『超高校級の裁縫マスター』とか『超高校級のぬいぐるみ作家』って言っても全然通用すると思う。
彼女はそれを私に手渡す。
ふわふわ。
小さな頃に買って貰った猫のぬいぐるみを思い出す。
たぶんあれはもう従姉妹のほうに回っていってしまったと思うけど。





「凄いですよ綾樫さんっ!これ絶対喜んでくれますよ!」





「あぁ、違うの、それ」





「…ふぇっ」






…我ながら間抜けな声を出してしまった、と顔を赤くする。
体を縮こまらせたまま、ぬいぐるみを彼女の手の中に戻す。






「だから、違うよ。これ、転子ちゃんの」






「て、転子に、ですかぁ!?」







「うん」






もう一度手の中に戻されたそれをもう一度よく見る。
あ、なるほど。
ぬいぐるみの後頭部をよく見ると、転子と同じ色の髪飾りがつけてある。
ちゃんと柄も一緒だ。






「ね、転子ちゃん…いつか二人で手繋いで、檻から出ていこうね」






綾樫さんが裁縫道具を片付けながらニコニコと笑う。
…彼女の言葉の意味は、まだ転子には分からない。
ただ、綾樫さんの笑顔は夕焼けで溶けて、転子の心の中に染み込んで混ざりあって、やがて形になっていった。



















(その形の名前を、転子はまだ知らないんです…)





















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