短編
□甘い甘いいいにおい
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「あやしい」
王馬くんのうなじの匂いを嗅ぐ。
とても甘いにおい。
彼のにおいではない。
「はぁーあ、どうせさよちゃんのことだから浮気してるとか思ってんでしょ」
彼は持っていた雑誌を無造作にベッドに放ると、面倒臭そうに私の額にでこぴんした。
「そもそもさぁ、俺、みんなに嫌われてんだから浮気のしようがないでしょ?」
「まぁ、確かに」
「うん、さよちゃんって何気にひどいよね」
私は押し黙ったまま、彼の腰に手をまわす。
王馬くんは幼児並みに体温が高いから、じんわりと腕が熱くなる。
「…王馬くん、そうじゃなくてね」
まわした腕に力をこめる。
潰さないように気を付けながら圧力を徐々に加えていく。
「王馬くん、私のケーキ食べたでしょ」
さっと彼の体温が下がっていくのを感じる。
そんなわけないじゃーん、と言ってはいるが、体は嘘をつけないみたいだ。
つまり、図星。
「ふん!!」
力をこめ、そのまま王馬くんを地面に叩きつける。
…その後、王馬くんは私のケーキに手を出さなくなった。
…ケーキだけ。