短編

□だっこのだっこの王馬くん
1ページ/1ページ

















「綾樫ちゃんって抱き心地抜群だよねーっ」





…などど、ふざけた言動を私にぶつけるのは王馬小吉。
私はベッドに体を沈めたまま、げっそりとしていた。
なぜか。
それもこれも全て私の素晴らしき善意のせいである。
本当に、なんでもう、このチビッコを斬美ちゃんの代わりに起こしに来たのだろう。
こんなことになるのなら星くんにでも頼むんだった!





「…過ぎたことを嘆いていても前には進まないよ?」





「あぁ、もう!煩いよ!目、覚めてんならさっさと着替えて!あと腕放して!!放せ!!解放しろぉ!!」






背後からまわされた腕を掴み、全力で抵抗する。
だけど、彼も一応高校生。
しかも男子。
いくらチビッコで名前が豆柴っぽくても、力は年相応、性別相応についている。






「甘いなぁ。ね、綾樫ちゃん。俺の秘密一つ打ち明けてあげようか?」






「ひみつ」






暴走させていた足を止め、肩越しに彼を見る。
見る、なんて言っても角度的な問題で毛先しか見えなかったけど。






「実は…俺ね…」






…実は、こうゆうふうにすることには訳があって、実は暗い過去があるとか。
王馬小吉の部屋に似つかわしくない、実にシリアスな空気にごくり、と生唾を飲み込む。





「ぬいぐるみないと寝れないんだよねー」





「私ぬいぐるみでもなんでもないけど」





「わお、即答」





うっかりマジレスしてしまった。
口を半開きにしたまま硬直する。
いや、ほんと、え、高校生…だ、男子高校生……?





「ほら、このへん!!」





と、容赦なく両手で掴まれた下っ腹。






「うん、やっぱ綾樫ちゃん抱き心地抜群だよ〜!」







「な…なな……」







あまりにも突拍子過ぎたもんだから、言葉にしたいことが喉から先へ出てこない。
…斬美ちゃんのごはん、美味しいから気付いたら3杯目とかよくあるんだよね。
もう一度下っ腹を見る。
…ダイエット、しなきゃ…。
半ば絶望を感じながら腕をほどこうとした、そのとき、丁度ドアが空いた。






「………オハヨウゴザイマ」






「あら、またあとで来るわね」






「あああああああ!!!ちが、違うんです!!放せチビッコオオオオオオ!!!」






「チビッコなんて酷いなー。愛しあった仲じゃない」






「やっぱり失礼するわね」






そう言って斬美ちゃんはスマートに部屋を後にした。





その後、最原くんが哀れむような目でこちらを見てきたことは言うまでもない。









[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ