ボクの亡骸
□彼のお話
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「いいよ、付き合おうか」
「え」
心臓がニートになるところだった。
まさかボクの不運でうっかり漏らしてしまった「好き」って本音が
手品みたいにポンって幸運に変わるとは、本当思ってもみなかった。
こんなうっかり発言からボクと彼女は付き合うことになった。
「ねぇ、恋人ってなするもんなの?」
放課後の教室でペン回しをしながら彼女はそう言った。
彼女の手元を見やる。
が、40分位前に始めた数学のプリントはまっさらなままだった。
さよは「超高校級の家庭教師」と呼ばれているが対象は小·中学生のみらしく、高校の勉強は全くもってお手上げ状態。
なのでボクが彼女の勉強に付き合ったのだがどうも進まない。
「なにって……一緒に出掛けたり、手繋いだり、キスしたり……いろいろあると思うけど」
x=14…っと。
最後の数式を解き終えてペンを置くと、さよは大きなため息をついた。
それはボクが数学のプリントを終わらせたからではない。
「分かってるなら、ほら」
さよはボクの方に椅子を近づけてボクにもたれ掛かると、じっとボクを見上げた。
……別に彼女の顔を見て好きになった訳じゃないけど、うん……可愛い。
目の上で綺麗に切り揃えられた髪は手入れが行き届いていてサラサラだし、肌も色白でふっくらしている。
「あはは、ボクみたいなゴミ虫なんかが君に触れてもいいのかい?」
「いいよ。……あ、でもさわってほしいのは王子様みたいな狛枝くんだからね」
「じゃあボクは君に触れられないみたいだ」
「早く」
「はいはい」
彼女の頭に手をのせる。
すると彼女は心地よさそうに目を細めてボクの胸の中におさまった。
「大好きだよ、狛枝くん」
さよがボソッとそう呟く。
あぁ、どうしよう。心臓が壊れてしまいそうなほど大きく跳ねる。
「ボクも……大好き」
さよのかわいさに負け、表情筋を緩める。
こんな風に一日が過ぎるのも、なんだか悪くないな。