ボクの亡骸

□彼女のお話
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まさか世界で一番好きな人に「好きだ」と言ってもらえるなんて、
一体どこにこんな幸せものがいるのだろうか、とどこか他人事のように思っていた。
それが例え自分に向いていたとしても、となりの誰かを見ている気分になる。
おめでとう、幸せそうね。
心が私を祝福する。











帰り道、デパートに寄った。
もちろん一人ではない。
彼、狛枝凪斗も一緒だ。
ドーナツを食べに来たのだが、自動ドアを抜けてすぐの大きな緑色のそれに足を止める。









「そっか、もう七夕だね」









狛枝くんは大きな笹を見上げ、大きいね、と喜んでいた。
狛枝くんはこうゆうのは好きなのだろうか。
おまじないじみた女々しいものなんて。










「ね、どうせだから短冊書いていこうよ」










狛枝くんは笑顔でそう言うと笹の下にあるテーブルで何かをサラサラ書き始めた。
私も彼の隣に並んで短冊用の紙を一枚手にとる。
しなやかで、ちょっといい和紙だ。
手触りが気持ちいい。












「さよの事だから頭がよくなりますように、とかご飯がたくさん食べられますように……とか?」








「そ、そんなこと書かないよ!もっと大きなことお願いするの!」








狛枝くんの可愛い(?)冗談を流してさっさと自分の願い事を書き、紐でそれを吊るす。
……よし、一番高いところにかけたからきっと叶うはずだ。







「さて、短冊も書き終わったことだし、今度こそドーナツ食べにいこうよ」









狛枝くんはもうすでに飽きたのか、近くの壁にもたれ掛かって私を待っていた。
狛枝くんは何を願ったのだろうか?









「ボクたち人間に生まれて良かったね」









狛枝くんがふいにそんなことを言った。
私は彼の腕を掴んだまま

「どういう意味?」

と、問い返した。
狛枝くんは少し間を置いた後、折り紙のスイカを私の手のひらにのせた。
待っている間に作ったのだろうか。
多分そうだろうけど。









「だってさ、ボクたち織姫と彦星に生まれていたとしたら」










私は折り紙のスイカを手にしたまま立ち止まる。
狛枝くんも、静かに立ち止まった。











「ボクたちは永遠に会えない運命だったかもしれない」









彼の視線の先には電器店の大きなテレビがあった。
ニュースキャスターはのんびりとした口調で、

「いやー、今年の七夕もふりそうですねぇ」

こんなふうに談笑している。











「狛枝くん」











急に不安の波が押し寄せてきて、心の中に貯まっていく。










「私たちは、違うんだよね」












上手く笑えなくてついうつむきがちになっていた顔を、狛枝くんが優しく持ち上げた。












「大丈夫。大丈夫だよ」








頭の上が心地いい。
やっぱり人に撫でてもらうって悪くないなぁ。
嬉しさと切なさを手のひらで押し潰して鞄の持ち手を強く握った。







     


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