ボクの亡骸

□文化祭準備のある日
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「あっつい…」





9月。そう、秋だ。
みんなが大好きな秋がやってきた。
食欲の秋。芸術の秋。読書の秋。スポーツの秋。etc。
だけど秋なんてのは名前だけで、今日も空は南国の海もビックリなレベルで真っ青。
しかも気温は34度を上回る。
私は木陰で絶え間なく流れ落ちる汗を拭いながら、看板作りに没頭する。
途中、ソニアさんが「手伝いましょうか」と声をかけてくれたが、
彼女は両手に大きな紙袋を抱えていたので丁重にお断りした。
なので私は今一人である。
一人で看板にペンキを塗っている。
……改めて考えてみるとなんて寂しいやつなんだろう、私。
ペンキのハケをバケツに放り入れると、こんどは集中の切れた私の鼓膜に蝉の大合唱が襲いかかる。










「文化祭の看板、よくできてるね」




「うっひゃぁ!?」










ピトリ、と私の首筋に触れた冷たい何かに全身の産毛を逆立たせる。
こんなことをするのは一人しかいない。







「はい、差し入れだよ」







と言う彼の手には、表面が結露した冷たそうなスポーツドリンクがあった。
私の首筋にあてられたのは多分それだろう。
小さく早口で「ありがとうございます」と言うと狛枝くんは、そっけないなぁと笑った。






日陰にあるベンチに二人で腰掛けると、優しい風が私の髪を撫でた。
体の熱がそこそこ消えていった頃、私は狛枝くんに素朴な疑問をぶつける。





「狛枝くん、校舎内で作業してたの?」









だって本来なら文化祭準備で男子は全員外に出払っているはずなのだ。
だけど狛枝くんは涼しい顔で汗一つかかずそこに立っている。






「あぁ、ボクは衣装の手伝いをしてたんだ」








そう言えばうちのクラスは和風喫茶をやると言っていた。
日寄子ちゃんが珍しく鼻息を荒くして張り切っていたっけ。
どこか他人事のようにそのことを思い出して、頬が自然に緩む。








「でね、ボクは辺古山さんと君の衣装を担当したんだけど」




「んぇ!?」






「あ、ごめんそうだよねあははボクみたいなヤツが作る衣装なんてこれっぽっちもきょうみないよねうんわかって」






「そ、そうじゃなくて!!」











半ば無理矢理狛枝くんの言葉を遮ると、言いにくくて、少し深呼吸してから彼を見上げる。









「う、嬉しく、て……その……」







あぁ、自分でも何を言っているのかわからない。
喋らなければよかったかもしれないと思い始めた次の瞬間、
狛枝くんの顔が桃色に染まって、次第に赤く赤く…









「うわっ…!?」







狛枝くんが私の肩に額を寄せる。
彼の名を呼ぶが返事がない。
代わりに、






「今、スッゴいだらしない顔してるから、見ないで」







そう言った。
私は、3分だけね、と彼の背中に手をまわして彼の髪に顔を埋めた。




その後左右田くんにどやされたのは言うまでもない。











     


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