ボクの亡骸
□嫉妬
1ページ/1ページ
あぁ、なんてついてない日なんだろう。
さよと人気のない校舎裏で向かい合う。
「で、なんで君は好きでもなんでもない男子とイチャイチャしてたわけ?」
「それは、道……聞かれたから。それにイチャイチャなんかしてないよ」
ボクに攻めよられたさよはしどろもどろにそう答える。
目を反らすあたり、ますます怪しい。
ボクの胸の奥にある汚いドロドロが沸々と沸騰しはじめる。
「ただ道を聞かれただけ?嘘。下心があったに決まってる」
遡ること30分前、持ち場の仕事が一通り終わったボクはさよとこの文化祭を回るために、
浮き足気味で彼女がいるはずの食堂へと向かった。
さっき見たとき、となりのクラスはお化け屋敷をやっていた。
彼女は怖いのは苦手だろうか?
それなら一個上の学年の運営するたこ焼き屋で色々買って中庭でのんびりしようか。
そんなことを考えながら食堂のドアを開けた。
いや、開けようと、した。
「ね、3年A組ってこのフロアだったっけ?」
「あ、はい。ここを出てすぐ右です」
「へー、ありがとう。ね、その服似合うね」
「本当!?えへへ……ありがとうございます」
「すっごいいいよ!それはそうとさ……」
誰。
誰と話しているの。
なんで満更でもなさそうな声、出してるの。
目の前のドアが歪み、舌の上にざらついた鉄の味が広がった。
「あ、狛枝くん。おかえり!」
二人の間に割り込み、さっさと彼女の手を引いて出口へ向かう。
途中で彼女は「痛いよ」とか「どうしたの」とか言っていたような気がしたけど、苛立つボクの耳には全く届かなかった。
「痛いってば!」
強い力で振りほどかれたのは裏庭についてまもなくのことだ。
彼女はうっすらと涙を浮かべ、赤くなった手首をさする。
「どうしちゃったの、狛枝くん」
そして現在に至る。
さよは少し怒っていた。
だけどボクも引き下がらない。
「ねぇ、嬉しかった?あんな風に言い寄られて。まぁそりゃそうだよね。
ボクみたいなゴミなんかよりもああいう整ってるヤツの方が良いんだもんねぇ」
気分よかったでしょう?
そう言い切る前にボクの頬に鋭い痛みが走る。
……はたかれたのだと理解するまで、そう時間はかからなかった。
「そう、狛枝くんはやっぱ違ったんだ」
その声は怒りによるものか、悲しさによるものか、僅かに震えていた。
「楽しみだったんだよ。狛枝くんが作ってくれた衣装着るのも、文化祭まわるのも」
さよが伏せていた顔を上げる。
白い肌はしっとりと湿り気を帯びていた。
「そっかぁ……浮かれてたの、私だけだったんだ」
馬鹿みたいだね、私。
そうぼやいてからボクに背を向け、さっさと歩き出した。
「待ってよ。どこ行くの」
ボクがそう言うと、さよは足も止めずに
「ソニアさんたちと行ってくるから。ついてこないでね」
無愛想にそう言って今度こそボクの目の前から去っていった。
あぁ、本当に今日はついてない。
「そりゃ怒られるよ」
「やっぱり?」
「あと食べるならもっと美味しそうに食べてくれない?」
花村くんの肉じゃがをもそもそと頬張りながら大きなため息をついた。
さよと別れてかれこれ2時間がたとうとしている。
「だいたい、綾樫さんが喜んだのも狛枝くんが作った衣装を誉められたからだと思うんだけどなぁ」
「ボクの?」
文化祭準備の際にボクの仕立てた着物。
初めて作ったから随分と不格好だったけど、思えば衣装あわせのとき凄く喜んでくれていた。
「はぁ……どうしよう。もう顔向けできない」
「ま、まだ望みはあるよ!!」
見て!と、花村くんが時計を指さす。
「文化祭終了までまだ2時間あるんだよ!まだ間に合う!」
「花村くん……」
ボクは花村くんがそっと差し出してくれたティッシュで鼻をかむと、急いで彼女を探しに外へ駆け出した。