ボクの亡骸

□ありがとう、ごめんね、大好き
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寮の廊下は薄暗い。
蛍光灯は長い間取り替えていないのか、ぱかぱかと消灯と点灯を繰り返している。




「狛枝くん、苦しいよ」




「んー……」




さよがボクの腕のなかでリンゴみたいな頬っぺたをぷくっと膨らませる。
だって、そんな可愛い顔するから、ほら、また離したくなくなる。





「さよはこれ、嫌い?」





そう呟くと、さよは勢いよく首を左右にふった。
それからチラッと廊下の向こうを見て、恥ずかしそうに顔を伏せた。




「ここ、廊下だよ?見られたら、恥ずかしいよ」




見られたら見られたで、ボク的には全然良いんだけど。
あ、でも彼女の恥じらう顔は見られたくないなぁ。




「こんなに薄暗いんだし、それにこんなとこ限られた人しか来ないよ。ね、ダメ?」





耳元で囁くと、彼女のからだがピクン、と跳ねる。
それが可愛くって、真っ赤に熟れた彼女の耳に舌を這わせる。
じゅるじゅるとぬるついた唾液が耳を犯していく。




「……んぁ」




さよが切ない声を漏らす。
と、ほぼ同時にがさっと木の葉の擦れあう音が二人の間をちょんぎる。
さよなんかはショックで体をカチンコチンに凍結させている。
二人でゆっくりとそちらを見やる。



「んあー」



ぴょこり、とどこかで見た耳が影から覗く。



「ね、ねこ…」




黒猫が木の影から現れ、ボクたちの姿を見るなりさっさと向こうの方へ逃げていった。
なんだ、花村くんか左右田くんあたりだと思ったけど、ただの黒猫か。
まさか田中くんが変身したなんて、そんなことはないだろうけど。
取り直して彼女の手を握ると、細い指がボクの手に絡まった。




「……ね、今日好きな漫画の発売日なんだ」




さよがぽつりとそう言った。




「一緒に本屋、行かない?」





この状況から奪回したくてそう言ったのか、ただ単に思い出したのかと問われれば恐らく前者だろうけど。
まぁデート、なんてのも悪くはない。
せっかく晴れているのだ。




「じゃあ続きは帰ってきてからボクの部屋で」




「んん……」




彼女の残念な声は青空に溶けて消えていった。
















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