ボクの亡骸

□またねは後ろ側に
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銀色のポストを開けると、見慣れた封筒が見慣れた字体で、見慣れた差出人から送られてきていた。
私はそれを無造作に掴み取ると、開けもせずにゴミ箱に突っ込んだ。
明日生ゴミと一緒に出してやろう。



父親の怪しい実験の被検体になるなんて、まっぴら御免だ。



疲れた体をベッドに沈ませると、携帯の愉快な着信音が部屋に響き渡る。
ディスプレイに写し出された「狛枝くん」の文字に私は歓喜する。




「やぁ、ボクだけど」



「あはは、ボクボク詐欺ならお断りですよ〜」



「んうぅ……なかなか君酷いね」




狛枝くんを弄り、先程までの胸の不快感がどこかへ消え去る。
私の大好きな狛枝くんの、おやすみの電話だ。
ここ最近予備学科の会話を盗み聞きして始めた、新たな試みだ。
世間ではこれを“おやすみコール”と言うらしい。



「今日の宿題は終わった?君朝泣きながらやってるけど」



「お…終わったよ!……問1は」



「うん。あと19問は軽くあるね」



結局半泣きになりながら狛枝くんに解き方を教わり、1時間たってようやく丸つけまで辿り着いた。
こうゆうのは早くやるもんだなぁ、とは思うがなかなか実行できない。
田中くんが言う、悲しき宿命というやつである。



「そうだ、クリスマスなんだけどさ」



プリントを仕舞いながら狛枝くんの声に耳を傾ける。
クリスマス、まであと2週間くらいだろうか。
時がたつのは本当に早い。




「クラスのクリスマス会が終わったあと……って言ってもその時点で9時頃だろうけどさ、
少しだけでいいから君と過ごしたいんだけど……」




しどろもどろな彼の声が、恥ずかしそうに震えている。
狛枝くんはああ見えて、かなりシャイである。
そこも含めて好きなんだけども。




「うん、いいよ。じゃあ私、部屋片付けておくからさ」




……あぁ、なんだろう、言ってから恥ずかしくなってきた。
火照っていく顔を膝に擦り付けて悶えていると、電話の向こう側から堪えるような笑い声が聞こえてきた。




「君って、可愛いよね」



「んん……」




私よりもずっと大人っぽくそう言う彼は、電話越しだとさらに色気を増すらしい。
本当に、ズルい。




「じゃあ、また明日」




「うん。また明日ね。……おやすみ」





そのときは《まさか》なんて予測できるはずがなかった。
《まさか》今の言葉が、今の私と狛枝凪斗が交わす最後の言葉になろうとは、天の神様ですらも分からなかっただろうから。



















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