ボクの亡骸

□運命だった
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昔々、ボクがまだ幸運や不運をはっきりと認識していなかったほど昔の話だ。




両親とデパートへ出掛けた。
食品や衣類、玩具や不思議な動物たちなど、たくさんの店があわさったそこにひどく驚いた記憶がある。
ボクの新しい服を見て、以前から飼いたいと言っていた犬を見て、それから滑稽な格好をした手品師のそれを見、
レストランではオムライスを食べた。
それから最後に屋上の遊園地へ足を運んだ。
今時屋上に遊園地があるデパートなんて無いに等しいけれど、当時はまだそんな古いところも残っていた。

まぁ、とりあえずボクたち3人は観覧車に乗るために屋上へと上がった。
それで、エレベーターを降りた瞬間風船配りのお姉さんを見て、もらって、それから迷子になった。

正直こんな経験無かったから、喉の奥は焦りと罪悪感でざらついていた。
どうしよう。怒られる。
戻ろうとも思ったが、なんせこの人混みだ。
通る隙間もほとんど無い。
涙がちょちょぎれる。
うつむきかけたとき、視界の端にうずくまる影がうつった。
目をやると、ちょうど自分と同じくらいの少女が肩を震わせて泣いていた。



「ねぇ、大丈夫?」



自分のことなんかすっかり忘れて、さっきもらった風船を差し出した。
すると女の子はそろそろと顔を上げ風船の紐を握った。




「ありがとう」




涙で潤んだ目を擦ってから嬉しそうに笑った。
でもすぐにまた笑顔が消えて、



「おかあさん、いなくなっちゃったぁ…」



と泣き出した。




「ボクもおんなじ」




少しでも勇気づけようと手を握り、無理やり笑ってみせる。
なぜだろうか。
彼女の泣き顔を見たくなかった。




「一緒に探さない?」




彼女はそっとうなずいた。












「なぎくんは王子さまだねぇ」



二人で手を繋いで歩いていると、さよ(というらしい)が唐突にそう言う。
王子様って、あれだろうか。
よくお母さんが読んでくれる白雪姫の、キスする男の人。



「でもボクはキスしないよ」



だって、あんなふうに見ず知らずの女の子に恋して、急にキスするだなんて絶対に無理だ。
さよは少し考えたあと、年相応の少女らしくはにかんでみせた。



「大人になったらキスしに来てよ。そうしたら王子さまになれるよ」




「また会えるのかな」




「会えるよ。"うんめいきょうどうたい"だもん」



そのとき、ボクの後ろから彼女の名前を呼ぶ声が聞こえた。



「お母さんだ!」



パッと顔を綻ばせる。
あぁ、もうお別れなんだ。
ボクの手を離れ、母親らしき女性にむかって駆けていく。
ボクは黙ったまま、伸ばしかけた手を引っ込めた。



「凪斗!」



お母さんの声が聞こえた。
そして次にボクの体を抱き締める。



「どこに行っていたの。まったく、お母さんを怖がらせないでね」



ボクのお母さんは多分他の人よりもずっとずっと心配性だ。
だからこうしてボクの体を抱き締める。
この温かさがたまらなく好きだ。



「お母さん、あのね」



優しい腕の中で彼女の姿を思い出す。



「ボク、お姫様に会ったよ」





























だから、彼女と同じクラスになったとき、これが運命なんだなと思った。
















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