ボクの亡骸

□あなたはだあれ
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床に撒き散らされたそれに目を奪われる。
見覚えがあった。
今日だって見た。
“こまえだくん”…否、狛枝くんから貰った髪飾りをつけたあの子。
鏡のなかで松原さんとお話ししていたあの子。







「……わたし」







床に半壊した私の頭がごろん、と転がる。
嘘、うそうそうそ、嘘だ。
あれは私じゃない。
目の前の熊なんかお構いなしで、震える手で顔を被う。
じわりと温かい肌が生きていることを証明する。
だけど同時に、頭の中で再生された映像が目の奥で点滅する。





















じんわりと、記憶が滲み出してくる。
















目が覚めると、私の頭はやけに軽かった。
あの激痛はもうどこにもいなかったし、冷たさを覚えるような部屋も消えていた。
だけど、目の前の景色は変だ。
おかしい。
半透明のピンク色の水が私を包んで、小さい子が喜びそうな色あいの大量のコンセント。
その向こうでは女の人とお父さんが何かを言い合っていた。




「クローンを作って新たな人格を生成させるなど無茶苦茶です!死者をなんだと思っているのですか!」



「少しは黙れ、松原。考えてみろ、素晴らしいとは思わないか。
この実験が成功すればカムクライズルプロジェクトが失敗したとしても持ち直すことができる!
それに人工知能まで搭載しているからしてー」


「ですからーーー!!」




なにを、話しているのだろう。
もっとよく聞こうと彼らに手を伸ばす、と、お父さんがこちらを向いた。
…その目に、私は恐怖した。
見開いた目は充血し、目の下はクマができ、ブルブルと震えている。



「おお、我が娘よ。お前なら私に協力してくれるよな」



水がひいていき、視界が鮮明になる。
そこでようやく理解した。
女性…松原さんの向こうに見える、機械の中で見え隠れするなにか。
それは私、だったもの。


あぁ、私、死んじゃったんだ。






















「そこまでよ」




少女の声に現実に戻される。
多分、それと同時だった。



「壊れなさい」



声がすると、熊はムニュ、と体を少しだけ膨らませて、爆発した。
爆風に思わず目をつむり、咳き込む。
何が起きたのか、さっぱり理解が追い付かない。
煙が落ち着くと、目を開いた。
やっぱりそこには肉片やら…その、例の頭やらが落ちていたけど、熊の死骸の向こう側には、女の子がたっていた。
薄い紫色の髪の少女。
未来、と書かれたスーツを纏い、片手にはメガホンのようなものを持っていた。




「…私は未来機関の霧切響子。貴女を保護しに来たわ」




ベッドの上でへたれたままの私に手を差し出す。
力強い、確かな希望が彼女の掌に宿っていた。
私は彼女の手を言われるがまま握りしめると、彼女は強引に私をひっぱりあげ、廊下にむかって走り出す。








これが、私と彼女の出会いだ。








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