ボクの亡骸

□私と彼女
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ヘリコプターに激しく揺られて2時間半。
着いた場所は未来機関の拠点である建物。




「ここであなたは検査を受けてもらうわ」



「あの、霧切さん、私だけ…なの?その…助かった、のは」



ヘリコプターから降りて、彼女に問う。
すると霧切さんは私に背を向けて、真っ直ぐな声で「助かったのは貴女だけね」と、長い髪をかきあげた。
薄紫の髪が風で柔らかくうねる。
ふわりと空気の中で揺れた髪は吐き出してしまいたくなるような重みを感じさせた。



「そ…なんだ」



…あの建物から脱出するとき、廊下にいくつもの血痕が見られた。
壁、床、窓や瓦礫。
じゃあもしかしたらあのとき瓦礫の下とかにも、死体が…。
思い出しそうになって、プルプルと首を振った。
今思い出せば歩けなくなってしまう。




「綾樫さん、行くわよ」



彼女は相変わらずのきりっとした表情でスカートのシワを軽く伸ばした。
大人の女性。
彼女はまさにそれだろうな、と考えながら彼女について歩きだす。














検査室はどこもかしこも真っ白で、真ん中にポツンと円柱を横に倒したような機械が設置されていた。
医療ドラマやSFアニメでよく見る機械。
実際に見るのははじめてで僅かながらも興奮を覚える。




「そこ、ねっころがって」



霧切さんに言われるがまま、すぐそばにあった寝台に横になる。
思ったよりも固いベッドは私がねっころがると、静かに機械の中へと入っていった。
真っ黒の中で緑色の線があっちへ行ったりこっちへ行ったり、意外と動きが騒がしい。
まぁこのほうが落ち着くからいいのだけれど。
















3分ほどで検査は終わった。
私の体は寝台にのせられたまま機械から吐き出される。
人工的な真っ白な光が無駄に眩しくて思わず顔をしかめてしまう。
寝台が枕までちゃんと出たのを確認し、ようやく起き上がる。
こういうのってあまり寝心地良さそうに見えないけど、実際はさほどそうでもないらしい。
口を開こうとすると、部屋のドアが開いて、パタパタと軽い足音が入ってくる。



「ふはぁ〜、疲れた!あ、響子ちゃん!……と、あれ、先輩!?」



「え、あ、葵ちゃん!?」



目をぱちくりさせる。
深めの茶髪、海みたいな青い瞳。
ポニーテールにしているから以前よりもだいぶ大人びて見えたけど、確かに葵ちゃんだ。
プールの女神とも呼ばれたあの葵ちゃんだ。



「知り合いだったの」



「うん、中学の時の先輩で希望ヶ峰学園の生徒でもあるんだよ!」



葵ちゃんが目を輝かせながら霧切さんにそう言う。
…ってことは。


「霧切さんは、葵ちゃんの同級生?」


「そうだよ!心の友、ね!」


葵ちゃんが元気よくそう言う。
霧切さんはそっぽを向いていたから表情は見えなかったけど、
耳が少し赤かったから満更でもないようだ。


「いつまでもここで立ち話は…良くないわね。移動しましょう」


霧切さんが監視カメラを見上げてそう漏らした。
確かに、きちんとした場所だからこうやってお喋りするのはあまりよろしくないかもしれない。
咳払いをして、その部屋をあとにした。



















「おい、結果が出たぞ」


そう言って女子会をしていた室内にズカズカ入ってきたのは金髪眼鏡の青年だった。
下まつげが特徴的な、いわゆる美形だ。


「ありがとう十神くん」


霧切さんが顔色変えず彼の差し出した書類を受け取ったあたり、こいつは普段からこうなのだとみた。
霧切さんはざっと資料に目を通したあと、私の方に向き直った。



「まずは療養が必要ね。2週間くらいかしら。部屋は角の…」



「ってことは、響子ちゃん!」



葵ちゃんが嬉しそうに勢いよく立ち上がる。
すると彼女の言葉を汲み取った霧切さんが長いまつげをふせ、頷いた。



「えぇ、この2週間の行いにもよるけど。このままいけば未来機関の一員になってもらうことになるでしょうね」



まぁ、彼女が望めばだけど。
その次の瞬間、葵ちゃんが鯉のごとく跳び跳ねる。
彼女の元気っぷりに目を丸くさせ、また彼女たちとともにいられることに胸を踊らせた。















2週間の療養。
私は別にやることがないし、と未来機関として働くことに賛成した。
療養中の監視役は霧切さんにやってもらうらしい。
これでさっきの十神とかいう人だったら絶対人生終了だろうなぁ。
なんて不謹慎なことを考えながら、与えられた四畳半の部屋の電気を消した。






今日もきっと、彼の夢を見る。


















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