ボクの亡骸

□ボクの亡骸
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ひょっとしてボクが彼女のそばにいるから完治しないのではないか。
ある日、彼女の髪をとかしながらそう思った。
彼女の髪はさらさらとボクの手からこぼれ落ちていく。
なら、ボクが不幸になれば。










ボクがそばにいなければ。















「……幸運、なのかな」





さよがいた塔の前には男性の死体が転がっていた。
見たことがある。
…さよの父親だ。
彼の固い手の中から鍵を抜き取って空にかざしてみる。
鈍い銀色がキラリと壊れかけの蛍光灯に反射する。
塔の入り口を見ると、ドアはしっかりと閉まっていた。
さよが無事である確率はそれなりに高そうだ。
少しの不安と期待を胸にこめて、中へと急いだ。




運良くエレベーターはまだ稼働していた。
降りてまず目に写ったのは、警備員のあの人。
固い表情で僕を見ていた顔は歪んでいて、
あの人の真顔以外の表情をこんな形で拝むことになるとは、とそばにあったシーツを被せた。
その先にあるドアに、ずっとポケットに入れたままだったカードキーを通す。

ピピッ

二回機械音が鳴り、その向こうに懐かしいものが見えた。
木のドア。
温もりのある木のドアに手をかける。
お願い、無事でいて。

ギィ

























やっぱりボクはついていないのかな。



床に落ちていたゾンビモノクマの死骸。
その死体の影に見えたのは、血だまりの中で静かに眠る見慣れたあの子の頭。

フラフラとした足取りでそこに近づき、膝をつく。





「嘘だよ、ねぇ」





額に手をおく。
だけどそこに体温なんて概念はなくて、ただただ、どこまでも冷たい無機物の温度だけが存在していた。


これを、何て言うんだっけ。
左腕を握り、涙もぬぐわず呟く。



「絶望的だよ…」










しばらくして、廊下から足音が近づいてきて、ボクの後ろで止まった。



「狛枝凪斗ね」



後ろにいたのは女性…いや、少女だった。
少しだけさよが来たんじゃないかと期待したが、一瞬でソレは消え去った。




「ボクを殺すの?…あはは、それはそれでいいかもしれないなぁ」




そう、もうボクにこの世界は必要ない。
未来も希望も、もうなにもない。




「好きにしていいよ。もうこの体は必要なくなりそうだからさ」




かち

ボクに銃が向けられる。
あぁこれで終わり。
そっと目をつむる、が。



カシャン


窓ガラスが割れる。
彼女が撃った先にあったのは、モノクマ…の、なんだか羽がはえたようなやつ。




「あなたを連行するわ」




彼女はそう言い、ボクの手に手錠をかける。
その手は異様に冷たく感じた。




「ねぇ、ひとつ。君は誰なの」




ボクがそう言うと、彼女は振り替えることなく短く「霧切響子」とだけいった。
ボクは立ち上がり、彼女のあとを追う。
でも、出入り口でもう一度立ち止まって振り返る。



ーーー狛枝くん



「…さようなら」




彼女の脱け殻に別れを告げ、今度こそ振り返らずにその場を立ち去った。

















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