毒舌ナルト(女) 忍法帖!!

□中忍試験本戦!!〜自由を願う籠の鳥と、自由を願った籠の鳥〜
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「良く見ておけハナビ。日向の血継限界をあれほど色濃く受け継いでいる者は居らん。お前の姉は裕に及ばず」
「…姉さんより…?」
「恐らく、お前よりもだ」
「…!」


両者無言で向かい合うこと数秒。ネジが片足を前に出し砂の音を響かせたことで、漸く試合が始まった。
ナルトはクナイを投げながら先手必勝とばかりに真正面から突っ走る。
ネジは数本のクナイを華麗にかわし、ナルトの右ストレートをいなす。いなされ、地面へ向かうナルトはしかし、急に止まることはせず、逆に勢いをそのままに地面に右手をつく。そして掌が傷付くのも構わず片手で方向転換転換すると、肘を曲げることでグッと力を溜め、ネジの真上へ飛び上がり、くるりと宙返りする。そうすることで態勢を整えたナルトは、ネジの脳天目掛けて踵を振り上げ、思いっきり踵落としを繰り出した。
密かにチャクラを纏った脚で繰り出された踵落としの威力はその細い脚からは考えられない程絶大で、ネジに避けられ地面に衝突した踵を中心に、耳を劈くような轟音と共に亀裂が全体に広がっていた。
宙返りをして地面に着地したナルトは着地と同時に罅だらけの地を蹴ってネジへ向かう。
「駄目!!ナルト!!」
思わずサクラは席を立ってそう叫んだ。
「……ッ、!?」
「……」
回し蹴りを放ったその隙を突いて懐へ入ってきたネジにナルトは目を見開く。ネジの二本の指が点穴を狙う。それを見つめるナルトはーーーー。
「ーーー…」
嗤っていた。
「…?……、ッ!!?」
点穴を突かれそうなのにも関わらず笑みを浮かべるナルトに、訝しむネジは、点穴を突く寸前でナルトの笑みの理由に気付いた。
点穴を突かれるその寸前、ナルトは回し蹴りの途中で浮いていた脚を地面に叩きつけることでその方向へ身体をズラし、別の点穴を突かせたのだ。唐突に止まることなどできないネジはそのまま点穴を突いてしまう。
点穴を突かれたと同時に地を蹴りナルトはネジと距離を取る。
ナルトは強く突かれた右肩の付け根辺りを押さえ、地面に膝をつきながらもニヤリと嗤ってみせた。
「ありがと…チャクラを増幅させる手助けをしてくれて」
「チッ!!(外すどころかアイツの誘導にまんまと引っかかるとは!!)」
ナルトの明らかな挑発に内心顔を顰めるネジ。だが、嗤っているナルトも内心それほど余裕ではなかった。
「(今は成功したけど…次はきっと効かないな。二度も三度も同じ手に引っかかることはまず無いだろうし。相手には白眼があり、その眼は常に私の“点穴”を狙っている。下手に近づき過ぎると返って自ら身を滅ぼしかねない…。もう少し距離を取らないと…)」
笑みを消してゆっくり立ち上がりながらナルトはそう考える。
「(距離を取れるかつ無闇に点穴を突かれない戦法…これしかないか…)…影分身の術!」
ナルトは十字に印を結び、数体の影分身を呼び出した。
「(影分身の術!?成る程…分身とは違いチャクラが等しく分配されれば、この白眼を持ってしても本体を看破することはできない…)ふん。だが所詮、本体はひとつ…」
「…一言、向かう前に言わせてもらう」
「…?」
ピッと人差し指を立てると、ナルトはネジを無表情のまま、けれど鋭く睨み付けた。
「アンタは私が負けることを信じて疑っていないようだけど、私は運命を理由に現実から目を背けてるだけの弱虫に負けてやるつもりは一切ない。というか、負けない。アンタの言葉…“お前は俺に勝てはしない”、だっけ?
そっくりそのまま返してやるよ、日向の“天才”君」
「…ッ!!」
ナルトの言葉に苛立ったネジが眉を顰め、構えを取る。ネジの行動を再び合図として、ナルトの影分身らがネジへ駆け向かって行った。
四方八方からネジを囲むようにして同時に攻撃を仕掛けるが、それは“八卦掌回転”により完璧に防がれてしまった。回転によって影分身は勿論、本体であるナルトも同時に吹き飛ばされてしまう。次々に影分身が消えていく中、空中で上手く体を捻り、本体のナルトが危うげなく地面に着地する。ナルトは目を細めて呟いた。
「…それが日向の絶対防御、“八卦掌回転”か…」
「知っていたのか」
「…回転とは、術者が攻撃を受ける瞬間チャクラ穴から大量放出したチャクラで相手の攻撃を受け止め、己の体を駒のように円運動させることでいなして弾き返す、日向一族に伝わる特殊な防御兼攻撃技。
本来、チャクラ穴から放出されるチャクラはコントロールが難しいとされ、上忍と言えど殆どの場合は体の一部から放出したモノを術に利用する程度しかできない。けれど、柔拳を極めたアンタは、体全体からチャクラを放出し、その放出力だけで物理的攻撃を完封してしまう…」
「随分と詳しいんだな。だが、解説していられるその余裕も、お前の減らず口も、これで終わりだ。お前は、俺の八卦の領域内に居る」
「…?…!」
ナルトは一瞬、八卦の図を見た気がした。嫌な予感に胸がざわめく。
「…(なんだ…八卦の領域?…何が起ころうとしてる…!?)」
「柔拳法…八卦六十四掌」
ナルトがようやく理解した時には既に遅く、ネジはもう、ナルトの目の前まで来ていた。
「二掌!…四掌!…八掌!…十六掌!…三十二掌!!……六十四掌!!!」
「ガハッ…!!」
六十四個の点穴を突かれ、血を吐いて倒れるナルト。それをネジは冷めた目で見つめていた。
「全身64個の点穴を突いた。お前はもう、立てもしない」
「…っぐ…ぅ…ッ…!」
「…悔しいか?変えようのない力の前に跪き、己の無力さを知る…。努力すれば夢が叶うなんてのは、ただの幻想だ」
ネジの冷めた声音に、ナルトは腹の底が熱くなるのを感じた。

「(本当の絶望を知らない奴が…)」

ナルトが腕に力を込め、震えながらも体を起こし始める。

「(本当の憎しみを知らない奴が…)」

身を捩り、地面に膝をついて体を浮かせる。

「(現実からただ目を背けているだけの奴が…)」

片足を付き、息を荒げながら立ち上がる。

「はぁッ…はぁッ…!」

体中に走る激痛に顔を顰め、膝に手を付きながらもナルトは上目遣いにネジを鋭く睨んだ。

「(何もかも悟ったような顔で全てを諦めてるような奴が、ヒナタ達を見下してんじゃねぇッ!!)」

「…コイツ…ッ」
信じられない、という顔でナルトを見つめるネジ。そんなネジを嘲笑うようにニヤリと口角をあげ、ナルトは不敵に嗤って見せた。
「はん、なにが…“立てもしない”…だよッ…。立てるじゃん…ッ」
「…馬鹿なッ…!」
「…私は、アンタのその目が嫌いだ。力があるのに、何もかも諦めたように殻に閉じこもって…!何も変わろうとしない、濁った汚い目が…!!」
「うるさい!お前に何が分かる!?」
「分からねぇし分かりたくもねぇよ。でも、どうしてもお前だけは…ヒナタのこととか諸々含め、許せない!!
…宗家や分家のことは知ってる。アンタの額に呪印が刻まれてることも、アンタの父親が、裏取引によって宗家に殺されたことも、全部ね」
「なっ…!?」
「アンタはうちはと同じだよ。自分が世界一の不幸者だなんて、被害妄想もいい加減にしやがれ!!」
「黙れッ!!」
息を荒げるナルトの腹にネジが掌底打ちをする。
「ぐぁ…ッ!!」
そのまま吹っ飛んで倒れたナルトを睨みながら、ネジはゲンマに声を掛けた。
「試験管…終わりだ」
そう言ってナルトから背を向けるネジ。
だが。
「…逃げるの…?」
「ッ!?」
挑発するように掛けられた声にネジが振り向くと、先程と同じように背を丸めながらもしっかりと立っているナルトが居た。
「…“お前は俺に勝てはしない”…アンタはそう言った。けど、私はアンタみたいに運命運命って言い訳して逃げてるような逃げ腰野郎には、負けてやる気なんてねぇんだよ!」
「…何も知らぬガキが、偉そうに説教するのはやめろ。人は生まれながらに抗うことのできない運命を背負って生まれてくる…。一生拭い落とせぬ印を背負う運命がどんなものか…貴様などに分かるものか!!」
堪え切れないと言った様子でこちらを指差して怒鳴るネジに、ナルトは少しの間黙って荒い呼吸をした後、あっけらかんと言ってのけた。
「分からねぇよ…それで?それが、何?」
「…〜ッコイツ…ッ!!」
「カッコつけるんじゃねぇよ。アンタだけが特別なわけじゃないんだから…。ヒナタだって、宗家に生まれてきたのに落ちこぼれで、そんな自分にたくさん苦しんできた。自分を変えるために必死に努力した。アンタだって、口では運命は変えられないとか言っておきながら、本当は抗おうと必死なんじゃないの…!」
「……」


「……(ナルトがあんなに感情を露わにするなんて、珍しいな…)」
シカマルは手摺に膝をつきながら内心でそう呟く。
「(アイツ…ナルトの逆鱗に触れなきゃ良いけど)」


「…ッ、げほ、げほッごほッ…!」
「…ふん、お前の64の点穴はもう閉じている。当分チャクラの使えないお前がどう戦うつもりだ?所詮お前も、ヒナタ様と同じだ」
「…なんでも白眼で見えてると思ったら大間違いだぞ…人の事決めつけるのも大概にしろ」
「…なら、お前の言ってることが正しいか、見せてもらおう」
そう言って嘲笑いを浮かべるネジを横目に、ナルトは目を閉じる。
「…(九喇嘛、チャクラを貸してくれる?)」
『…良いのか?』
「(どちみちそれしかないじゃん。チャクラが使えないんだから)」
『それもそうじゃな。分かった、好きなだけ使え』
「(ありがと。じゃあ少し借りるね)」
九喇嘛との会話を終えたナルトは、目を開けると手を組み、チャクラを思いっきり練った。
「はぁぁあああああああああ!!」
「ふん…」
呆れたように笑うネジには目もくれず、ただひたすらチャクラを練り続ける。
やがて、ネジが収めていた白眼を再び発動し、構えた時。
「はああああああああああああ!!」
「(ば、馬鹿な!?チャクラが漏れ出しているだと!?どういうことだ!?)」
ナルトの周りを円を描くように砂や小石が薄く舞いだし、赤いチャクラが途切れ途切れに現れる。
「(コイツ…一体…!!)」
ネジがナルトの内部に目を凝らした時だった。ナルトの腹の部分に赤いチャクラが集まり、狐の形を模したのを見てしまったネジは、無意識に一歩後ずさる。
尾のように揺れていたチャクラを身体に纏わせたナルトは、一度硬く目を閉じた後、ゆっくり開く。その目は先程までの鮮烈な青ではなく、瞳孔が縦に裂けた、鮮やかな深紅の瞳だった。
ナルトが一瞬で姿を消し、宙に浮かびながらネジの背に向かって手裏剣を放つ。それを読んだネジは回転で防ぐと、宙に舞った手裏剣と自分の手裏剣を合わせてまだ宙に浮かぶナルトへ投げつける。が、再び一瞬で姿を消したナルトがいつのまにか間近くまで接近して繰り出した突きを間一髪で避けたネジは地を蹴って距離を取りながらクナイを取り出す。避けられたナルトも同じく地を蹴って後方へ下がりながらクナイを取り出し、同じタイミングでクナイを投げる。

同時に投げられた2つのクナイは互いに当たって弾かれる。

地面に擦れることで勢いを殺していた2人は止まった体勢を利用して再び地を蹴ると、クルクルと舞うクナイを手にし、互いの刃を交わす。そのまま交差し地面に着地すると、ナルトは素早く踵を返し、ネジへ駆け向かった。
「私は勝つ!!アンタが私の運命を“負けること”だと決めるなら、私は最後までアンタに勝つために粘り続ける!!それが、否定され続けてきた私の生き方だから!!」
「(なにを言って…!?いや、それより回転を…!!)」
ナルトのチャクラとネジのチャクラがぶつかり合い、大きな衝撃波を生む。辺り一帯が爆風と砂煙によって視界を奪われた。
やがて煙が晴れるとそこには、穴が2つ空いており、そこから煙が上がっていた。
「(なんっつーチャクラだ。あの餓鬼、馬鹿力出しやがって…これじゃあ日向の方こそ…)」
内心そう呟きながらゲンマは2つの穴を見遣る。観客も固唾を飲みながら会場を見下ろした。
やがて、片方の穴から煙に紛れて手が飛び出す。そこから顔を出したのは、日向ネジだった。
観客の一部は安堵し、一部は肩を落とす。
そんな中、ネジはフラフラとした足取りでもう片方の穴で倒れているナルトを見て、疲れ切った笑みをこぼした。
「…悪いが落ちこぼれくん、これが現実…」
ふと感じた違和感にネジが言葉を切って下を向く。

その瞬間。

「…なッ…ガハッ!?」
地面から飛び出てきたナルトのアッパーカットをもろに受け、仰向けに倒れるネジ。解けた紅い髪をふわりと広げて着地したナルトは、腕をダラリと下げ、息を荒げながら倒れたネジを見つめた。
ボフン!と音と白煙を上げて穴に倒れていたナルトの“影分身”が消える。
「(影分身を穴に残して勝機を見出したか。…やられても勝つことを信じ、次を考えて動くか…。自分を信じる力…それが運命を変える力となる。それをコイツはわかってる。しかも天然でな)」
ダラリと下げられたナルトの両手をよく見ると、掌…特に指先はボロボロで、爪なんかは所々割れており、血が滴っていた。
ナルトは倒れているネジの近くへゆっくりと歩み寄る。悔しそうな表情をしたネジが口を開いた。
「あの状況で咄嗟に影分身を…!?…お前の得意忍術か…迂闊だった…」
「…運命とか人は変わらないとか、つまんないことを言い訳にして、いつまで籠にこもってるつもり?自分から出ようとしないと、いつまで経っても籠の鳥だよ。いい加減、羽ばたきなよ。……アンタは、私と違って…自由に羽ばたくことが出来るんだから」
「……」
ネジはナルトから空へ視線を移す。いつもは何も感じない、なんの変哲も無い空が、何故か常より鮮やかに見えた。
「…勝者、渦巻ナルト」
はち切れんばかりの歓声が会場を包み込んだ。
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