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□キスからはじまる
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「最近のお前は覇気が無さすぎんだよっ!」
箱根学園自転車競技部のマネージャーである私は今、同級生の黒田雪成からお説教を受けている。
「ごめん。」
「ごめんじゃなくて。3月の後半からもう1ヶ月以上じゃねぇか。3年のお前がそんなんじゃ新入生にも示しがつかねぇだろ。」
黒田の言う通りだ。弁解のしようもない。
最近の私は備品を倍ほど発注してしまったり、集合の駅を間違えたり、挙げ句の果てには何もない所で転んで黒田に手当てをされてしまう始末なのである。
「何か原因があんだろ?俺たちが相談に乗ってやるから。なぁ、塔一郎。」
黒田の横には、キャプテンの泉田が立っていた。
「その通りだ。アブ。ゆうこがそんな状態だと部員達に悪い影響を及ぼしてしまうからな。」
キャプテンと副キャプテンにそう言われては仕方がない。
私は白状した。
「はぁっ?お前バカじゃねーの!?」
黒田の罵声が飛んできた。
「バカとは何よ!こっちは真剣に悩んでるんだからっ。」
つまりお前は、と黒田がまとめ始める。
「卒業した先輩の事が好きだった。振ってもらえたら諦められると思ったけど、ビビって言えずに後悔していると。そういう事か。やっぱりバカだろ!お前!」
「仕方ないでしょ。どうせ私はヘタレだもん。」
落ち込んでいる私に向かって黒田は容赦が無い。
「で、誰が好きなんだよ?新開さんか?」
「教えない!絶対教えない!」
「じゃあこれからどうする気だよ?」
「分かんない‥。」
めんどくせぇ奴だなと黒田に溜息をつかれてしまった。
「それならばいい解決法があるぞ。」
これまで私達のやり取りを黙って聞いていた泉田が口を開いた。
「さっき連絡があったんだが、今から福富さん、新開さん、東堂さん、荒北さんがここへやって来る。」
「えっ、何でここに?」
「東堂庵へ遊びに行くそうだ。近くにいるから寄ってくれるらしい。」
泉田は続けた。
「ゆうこの好きな人はその4人の誰かなのだろう。そこでだ、告白して振ってもらえばいいのだ。さぁアブ!告白するんだ!」
とんでもない事を言うキャプテンだ。
「そりゃいい考えだな。お前さっさと振られて来い!」
黒田が乗っかる。
「ヘタレの私が告白なんかできるわけないじゃん。絶対無理だよ!」