朝露

□序章
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冴えないやつだ、とか。
陰気なやつだ、とか。
最近はそんな事ばかり指摘される。
黒髪、眼鏡で根暗な僕も悪いんだろうけど、
(これでも中学の頃は、天然ボケ担当として活躍してたんだ)
不貞腐れながら心の中で言い返すばかりだった。

今は大学三年の夏前で、同世代の友人は就活だ、なんだと動き始めた頃だが、僕は将来のことをあまり深く考えられずにいた。
その原因の一つとして、僕は今、東京で小さな書店を営む祖母の所に住まわせてもらっているのだが、この書店が個人経営のくせに無駄に広く、品揃えが良いために客さんが沢山来る。そんな大勢のお客さんを腰の弱い祖母に相手させる訳にもいかず、バイトがてら毎日手伝いをしていた。
それを大学に通う3年間ずっと続けていたのだが、いよいよ祖母も後継者なんてものを考え始めたらしく、このまま卒業後も書店で働いてくれないかと提案されているのだ。
その度にそうだね、考えておくよ。ハハ。とお茶を濁して来たが、そろそろ真面目に返事しなきゃいけないよなぁ。

「朝霧」と書かれた新書を人気作を詰める棚に並べながらため息をついた。


「あ、これ読みたかったやつ。何処も売り切れで置いてなかったんだよね!」


「ぁえっ、」
物思いにふけっていた僕、奥田 海は突然聞こえて来た陽気な声に情けない声で返事をしてしまう。

「お兄さん、これ一冊下さいな〜」

とびきりの笑顔で新書を差し出す青年、木崎 透。
僕はこの時、コイツが同じ大学に通う優等生で、しかもこれから僕が好きになる相手だなんて考えもしなかった。
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