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□ルシアン2 e F
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フラフラと千鳥足の酔っ払いことFBに手を貸しながらえおえおは、先ほどの出がけに投げられた言葉を反芻していた。
(今更……なんだよなぁ。本当に)
内心で呟いてこっそりと目を閉じた。
ただの友人。
距離が近かろうがそのスタンスが基本的に崩れる事はない。
それが互いの無言の答えだった筈。
その互いの共通認識を崩そうと今、らしくもなく足掻いている。
愛している。なんて性格上言えるはずもないから、この男が知るはずもないカクテル言葉に感情を乗せて、そっけなさを装ってようやく吐き出せる想い。
ツッコミ役の心配性が案じる様な事は何もしない。そんな度胸、あるはずもない。
ただ……
(ヤキが回っただけだ)
苦笑をこぼし、あらぬ方向へ歩き出そうとしているFBの腕を強く掴んで方向修正をさせる。
「あのねぇ、今の時代便利なんですよぉ〜」
酔いの回ったフワフワとした声に、あ?と反応してやる。
「何処ぞのヘタレが頼んでくれたカクテル調べたりとか、スマホって便利だよねー」
「っ、お前っ!」
そんな素振り、見なかったが、席を外した時に調べようと思えばいくらでも出来る。そんな環境なのを完全に忘れていたことと、何より自分の行動が急に恥ずかしくなり、絶句した。
「あのね、嬉しかったんですよー」
「は?」
あいも変わらずフワフワと現実味のない口調ながら、目はしっかりとこちらを見ていて、酔っているのか、シラフなのか判別がつかない。
「こっちが幾ら言い出そうとしても、アンタその前に逃げるから……嫌なんだろうなって思ってたらコレだもんね。浮かれる浮かれる。乙女かって自分にツッコミ入れちゃうくらいは」
機嫌良さげに笑うFBにえおえおは今度こそ絶句してケタケタと笑う顔を至近距離でマジマジ見つめた。
ただの友人……
そんなスタンスでいたはずだ。互いに……
だが、その認識が間違っていたのか?
それなら、口に出しても良いのだろうか。
彼は自分の行動を嬉しいと言った。
それなら……
「好きだ」
ポロリと溢れた言葉に、もう驚きもしなかった。
掴んでいた腕を引き寄せ、華奢でもなんでもない体を抱きしめた。
「……漸く言ってくれた。オレも言いたかったんだ。おんなじ言葉」
嬉しそうに笑うFBに今までの考えが如何に相互理解を欠いたものだったのか突きつけられた様な気がして、抱きしめる腕の力をさらに強めた。
「あろまが心配してた様な事、やっちゃおうか」
ボソリと吹き込めば、ギョッとした顔がマジマジと見つめてくる。
「ん」
少しばかり逡巡した後、それでもたしかに頷いたFBに少し笑って冗談だ。と揶揄う。
「シラフの時にもう一回聞くから、今日は帰るぞ」
「…今までヘタレだったくせに」
不満そうな駄々っ子擬きをあやすように背を撫でた。


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